第44話  狙われたお嬢様 その㊹ 

「君は成宮さんの事を快くおもってなかったから、成宮さんに取り入るための事件に巻き込まれても僕は疑われずにすむ。さらに事件を調べるうちに、君がお金を盗んだことが証明されるかもしれないんだ。そうすれば、僕はそのお礼として、成宮さんから父の再就職先を紹介してもらえる。そんな酷いことを思いついて、実行してしまった…」

 家の中でずっとふさぎ込んでいる父親を見て、鳥山は焦っていたかもしれない。前のように、誇りを持って一生懸命仕事をしている父親をもう一度見たかったから。

「でも、昼休みに、霧島さんに全部見破られてしまったんだ。そして僕の方から君に謝罪するように勧められたよ。だから今こうして君へ心から謝罪する」

 そう言い終えた鳥山は、さらにその場で土下座をした。

「…!?」 

 ―もう先生に対して言い逃れは出来ない。

 田川の頭に、この一文が浮かぶ。

 鳥山がこうして、心から詫びているのだ。どんな理由があるとはいえ、他者へ罪を着せようとしたことに対して。

 そうさせてしまったのは、財布からお金を盗んだからだ。あの時、あんな事をしなければ、鳥山は罪を犯さなかったかもしれない。

 そう思うと、自分が一時の苛立ちと嫉妬心でやってしまった盗みに立ち眩みがした。とんでもなく馬鹿で、愚かなことをしてしまったのだ。

 自分のせいで、好きな人が事件を起こしてしまったのだ。盗んだお金でアルバイト先の売り上げに貢献したことも、結局その人のためになんかならない。

「…ごめんなさい!」

 田川も、その場で膝をついて、鳥山へ詫びていた。

 

 保健室の外の廊下で、結と満は少し離れて待っていた。

 昼休みにすぐ先生へ報告しなかったのは、結が『自首してほしい』と願ったからだ。鳥山は根っからの悪人ではないと思ったからである。

 満も、被害者の一人である結がそう望んだことから先生へ言わなかった。そして今、他の生徒に聞かれる心配がない保健室で、鳥山が田川を説得している最中だ。

(まさか霧島が、田川が成宮の財布から金を盗んでいたことまで突き止めていたとはなあ…)

 結は田川の財布を拾った時に、持ち主を確かめるために財布の中を見ていたのだ。そうしたら、四枚の一万円札が入っていたので、『もしかして』と思い、スマホでこっそりとそれを撮っていたのだ。

 残りの一枚は多分、昨日寄った鳥山のアルバイト先の喫茶店のレジの中だ。念のため、結は喫茶店のオーナーへ「その日の売り上げの一万円札は別に保管してほしい」と頼んでいた。

 その一万円札の指紋を調べれば『田川が盗んだ』という証拠になる。結が昼休みの時にそう話したのもあって、鳥山は自ら田川へ謝罪する事を決意したのだ。

 ちなみに結と満がその場にいなかったのは、鳥山だけの方がまだ説得しやすいだろう、と結が判断したから。それで、結と満は鳥山と田川が保健室の中へ入った後、その近くで待つことにしたのだ。

 保険室の戸が、ゆっくりと開く。

「…田川さんが謝りたいと言ってる。霧島さん、成宮さんを連れてきてくれないか?」

「分かりました」

 結はスマホを取り出すと、ラインで華へ連絡した。

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