第14話 狙われたお嬢様 その⑭

 この望ヶ丘高校の保健室には、生徒達の相談にのる為の場所も用意されていた。

 相談室も別にあるが、怪我や病気がきっかけで相談を持ちかけられる場合もある。そんな時にすぐ対応するために、椅子と机が置かれていたのだ。

 保健室で、保健室の先生へ事情を話した華達はそのまま相談用の椅子に座らせてもらった。先生が温かいお茶を入れてくれたので三人はそれを何度も口にしながら、結を待っていた。

 保健室の先生は、保健室の隣の給湯室で作業していた。華達だけの方がまだ話しやすい、と判断したからだろう。

 なお、保健室の壁側にあるドアは直接給湯室につながっているため、もし何かあったらすぐ保健室へ入れるようになっていた。

「あ、流にはラインで保健室に居る事は知らせておいたから」

 しばらく沈黙が続いたので、満はついそう言ってしまった。いつもなら華からいろんな話をし始めるのだが、今の華はお茶を口にするだけだった。

「鳥山、ちょっと」

 満は隣に座っていた鳥山へ声をかける。向かい側に座っていた華には聞こえないくらいの小さな声で。

「あの辞書、心当たりがあるのか?」

 保健室の先生へ事情を話した際に、上から落とされた辞書を先生へ見せた時、鳥山の顔が驚いていたのを満は見ていたのだ。

「…ああ、あれは同じクラスの」

 鳥山が答えようとしたその時、保健室のドアが数回ノックされた。

「失礼します!」

 ドアを開けると同時に、長い黒髪の女生徒が鳥山の方へと駆け寄ってきた。

「田川さん!?」

 その女生徒を見た鳥山は、驚いた声を出す。不安と焦りで息を切らしていたその女生徒は、鳥山から声をかけられた瞬間、一気に表情が変わったのだ。

「鳥山君!大丈夫だった!?」

 本気で心配していた田川へ、鳥山は「僕は大丈夫だよ」と優しい声をかけたのだ。

「よかったあ…」

 心の底からホッとした田川は、膝から崩れ落ちそうになった。

「成宮さんには当たりそうだったけどな」

 怒りがこもった目で、流は保健室の入り口の近くから田川を睨みつけていた。どうやら田川が、先程窓の近くにいた女生徒らしい。


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