第13話  狙われたお嬢様 その⑬

「成宮さん、大丈夫かい!?」

 三人がほっとした時、その人影が華を気遣う声をかけた。

「ええ…。ありがとう鳥山君」

 その人影は華より少し背が高い、こげ茶色の髪の男子生徒だった。鳥山に支えられ、華は体勢を立て直した。

「そうか、良かった」

 華が怪我しなくてすんで、鳥山は安心した。

「―あ、あれ!」

 その様子を見ていた流が、校舎の窓の方へ指を指す。三階の窓の側から、髪の長い女生徒が手を伸ばしていた。

 流の声が耳に届いたのか、その生徒は慌てて窓から離れる。流は「待て!」と叫びながら、校舎の中へ駆け込んでいった。

「華さん!」

 結は、華の方へ走っていく。満はどちらの後を追わずに、芝生の上へと落ちた物を確かめに行った。

「これは…?」

 それは、国語辞典だった。紙のケースに入った状態で落ちてきたらしい。

「もし当たったら、危ないところだったね…」

 満が顔を上げると、鳥山が深刻な顔でそう呟いていた。紙とはいえ、もし頭に直撃したら脳震盪を起していたかもしれない。

「はい、当たらなくて本当に良かったです」

 結の声も、かすかに震えていた。いつも冷静な結でも、華がもし大怪我をしたら…と思ったら血の気が引いていた。

「なぜこうなったのかしら…?」

 さすがに華も、突然向けられた悪意に少し怯えていた。手紙の内容から、こんな事になるとは想像もつかなかったのだ。


「…保健室へ行こうか。怪我はなかったけど、成宮さんを休ませたいんだ」

 鳥山からの提案に対し、結と満は首を縦に振った。二人共、華を落ち着かせた方がいい、と判断したからだ。

「私は飲み物を買ってきます。すみませんが、鳥山さんと日野沢さんは華さんと先に行ってください」

 中庭は飲食スペースがあるので、出入り口の近くの廊下に自動販売機が置いてある。結はそう言い残すと、一礼して出入り口へと歩き始めた。

「えーっと…、君も一緒に来てくれないか。あの自動販売機はペットボトルだけだから、霧島さんだけでも大丈夫だと思うよ」

 初対面だったので遠慮がちに話しかけてきた鳥山と、さっき結がそう頼んできたことから、満は鳥山と一緒に華を保健室へ連れて行くことにした。

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