第11話 狙われたお嬢様 その⑪

「…という訳なんですが…」

 次の日、少し早く出た結と華は、職員室で担任の先生へ全て話した。

「それは確かなのか?」

 結達からの説明を聞いた春山先生は、席に座ったまま確認するように聞く。四十代半ばで、黒くて短い髪といつも温和な表情が印象的な男の先生だ。

「ええ。昨日学校でお札は出していないんです。放課後、お店で支払う時に気づいたんです」

「わかった。後で警備会社に問い合わせて調べてみよう。何か分かるかもしれん」

 春山からの返事に、結と華は「ありがとうございます」と頭を下げた。

「成宮、これからは気をつけるんだぞ」

 たとえ華が成宮家の令嬢だからとはいえ、決して特別扱いはしない。これは華が入学する前から、全ての教員に言われていたのだ。

 余談だが華が入学した後、成宮家から多額の寄付金が学校に送られた。が、これらはすべての生徒が快適な学校生活を送るために使われる予定である。

「はい」

 そして華も、特別扱いしない学校の対応を心地よく思っていた。

結と同じクラスなので、その方が華にとって気が楽になるからである。 


 職員室から教室に戻ると、すでに満と流が登校していた。

 満は自分の席に座っており、流は机の前で満の視点に合わせるようにしゃがんで話をしていたのだ。

「あっ!成宮さんおはよう!って、霧島と一緒に登校したの?」

 華に気づいた流は、立ち上がって朝の挨拶をする。そして華と結が、流へほぼ同時に挨拶した後、結が「偶然同じ時間でしたので」と答えた。

 華のお金が盗まれた事は、先生からの報告があるまで秘密にした。

もし話してしまったら、他のクラスでも騒ぎになってしまうからだ。

「そっか!成宮さんって車で登校しているんだって?」

「ええ、学校の近くまで送ってもらっているの。学校の側だと止める場所がないから」

 ここぞと言わんばかりに、流は華と話し始める。結と満は、その会話へ無理やり加わることなく、すぐ側で静かに二人を見ていた。

 流が華と盛り上がっている様子を、他の同級生達も見ていた。華はクラスの人気者なので、流が急接近してくるのが気になる男子生徒もいるのだ。

「霧島も送ってもらったのか?」

 不意に、満の口からこんな質問が出た。結は一瞬びっくりしたが、すぐ冷静になって、満の方を向く。

「いえ、私は今日も歩いてきました。華さんと一緒になったのは、本当にたまたまなんです」

 それを聞いた満は、親戚だからといってむやみに甘えたりしない結の態度に少し感心したのだった。

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