第3話 狙われたお嬢様 その③
「おはようございます、華さん」
結が登校してきたのに気づいた華は、挨拶をしながら結へ手招きをする。ゆっくりと華の元へ歩いていく結を、満は何気なく目で追っていた。
「昨日、結も一緒に喫茶店でお茶をしていたよね?」
「はい、華さんに新作のお菓子の試食を頼まれましたので」
華のセリフに、結はうなずきながらそう答えた。
「そうしたら、いきなり店に入ってきた男の人がこっちにやって来て『男がいないのなら、一緒に飲もうぜ』と言ってきたのよ。結が断ると『お前に聞いてないからひっこんでいろ!』と怒鳴ってきたのよ」
それを見た鳥山が、急いで駆けつけてきた。そして毅然とした態度で男に対応していると、結が警察へ電話しているのを見た男は慌てて店から出て行ったのだ。ちなみに結は本当に電話したのではなく、スマホを耳に当てて喋っていただけであった。
冷静な声で、わざと聞こえるようにはっきりと言っていたので男はびっくりして逃げ出した、というわけだ。
「鳥山君は結の対応に感心していたけど、結は『鳥山さんのおかげで助かりました』とお礼を言ったの。それから私もお礼がしたいから個室へ移動して、鳥山君に早めに休憩を取ってもらって、その間にお話をしたの」
鳥山は戸惑っていたが、華からすれば嫌な男から守ってくれた恩人だ。そのお礼をするために、華は個室へ案内し、お茶と新作のお菓子を何種類も並べさせたのだ。
鳥山はその時『これがお礼だ』と考えていた。が、華はさらに追加のお礼を渡そうと、財布から現金を差し出したのだ。
しかも一万円札が数枚もあったので、鳥山はさすがに「いや!そこまで受け取れない!」と断った。
なぜだか分からず、納得しなかった華だったが、結に諭されていったんそれは財布に戻した。鳥山は、まだびっくりしたままだったが。
それから少し話をし、華と結は喫茶店を出た。その時、華は店主へ『鳥山君のアルバイト代に足して』と、先程の数万円を渡したのだった。
「結はその時、鳥山君へ話そうとしなかったのよ。鳥山君からの質問には答えていたけど」
結への質問は『どんなやり方で勉強しているのか?』だった。結は首席で高校に合格していた、という噂が流れていたからだ。
「小学生の頃に男子から苛められていたから、結は今でも現実の男の子が苦手なのよ。だから」
「華さん、もうすぐ先生が来ますよ」
はっきりとした結からの忠告に、華は出入り口から自分の席へ移動する。それを見た他の同級生達も、それぞれ席へ移動しようとした。
「自分のお喋りに夢うつつになって、周りを良く見ていないのね」
冷ややかに華を非難する声が、教室の窓側の席から聞こえてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます