第6話
君は私を愛しているのだろうか。もう私たちには選択肢がない。罪滅ぼしではないのか?君はどこを見て、何を愛し、誰を想う?
問いかけはシャボン玉のように、宙に舞って、静かに割れる。
ハルはいい人だ。私たちがまだ社会で働いていた頃から、それは変わらない。
出会いは同じ会社だった。【SR社】という会社の先輩だった。もう6年も前になる。当時、私が22歳でハルが24歳だった。
それから、多くの出来事を経て、ハルは私だけを見るようになった。
私はハルを愛している。それは変わらない真実だ。でもハルはどうなのか。今更聞いてどうなることでもない。愛していない、なんて答えは返ってこないから、それがわかっているから私は頭を悩ませる。
三上の話を終えて、買い物に来ていた。
あの時、ハルの口から、殺すという言葉が出た。
驚きはなかった。
ハルなら、そうしかねない。私だって、そう思ったことが無いわけじゃない。
ハルは私のため、そして自分のためにも殺したいのかもしれない。もう手遅れだけど。
今更、三上がなんの用で私たちを探しているのか。
正直鬱陶しい。私たちの眼前に立てば、ハルは間違いなく敵視するだろう。最悪殺しかねない。
だから、人殺しの恋人は誇れない、なんて言葉でハルをたしなめた。
言葉で人を支配出来るなら苦労しない。ハルの本心はどうなのか。それを知りたい。
「ねぇ、ハル」
「どしたの。 まだ行きたいところあった?」
帰り道、ハルに問う。
「あの言葉、どれくらい本気なの?」
少しの沈黙のあと、
「正直、まだ憎いけど仕方ない。 俺もアカリとの生活が好きだから」
屈託のない笑顔でそう言ってくれた。その言葉を信じていたい。
いつもと違う道を歩いてみたせいか、森の奥に桜の木があるのを見つけた。
「ハル! 見て」
「桜か。 まだ咲くにはちょっと早いね」
この風景に溶け込んで、二人だけで眠れたら。そんな理想を描くほどに美しい。
「桜はね、1月1日の最高気温、2日の最高気温って足していって、600度になる日に咲くんだって」
ハルが豆知識を教えてくれた。
「すごい。 もうちょっとで咲くね」
「咲いたら、またここに来よう。 アカリ」
こうしてまた、約束を重ねたある春の日。
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