第18話

「えっと。つまりハンドルネームで選挙に出られないのは、その名前に権限が無いからであると?」

「そうなのです。ですが、そのハンドルネームは少々、定義に当てはめるのに、一捻り加える必要があるのです」


「その一捻りとは?」

「"言葉遊び"なのです。例えばとあるアカウントのハンドルネームを河鵜とした時、「私が河鵜です」と自己紹介したとしたとする。だけど、正確には「私が川鵜(と名乗っている人間)です」となるのです。よってアカウントを所持証明の第二定義になります。が、同様の第二定義で使用した、例えば犬の名前を自身で名乗るのは不可解なのです。それによって考えられるのは、第二定義の相互使用です。そもそも名前は、名称を付与した後に、対象者が名乗る、または反応した時に確立します。物の場合は、付与後、異議が無い場合はその名称で確立する下に存在する為、相互で関わっているのは間違いないのですが、この鎖は一本です。ですが、匿名上で使用されている名称は二つ繋がれている事になります。双方が付与し確立しているという事です。アカウントはユーザーにアカウント自身の名前を付与している事になります。もう一つの考え方に、ユーザー自身がユーザー名を生成し、自身に付与した後に、付与され名乗る事が許され、アカウント名に使用している考え方です。

 式で表します。


 前者の考え方は

 アカウント名=ハンドルネーム

 ハンドルネーム=ユーザー

 その結果、アカウント名=ユーザー


 後者は、

 (ハンドルネーム=ユーザー)=アカウント名

 その結果、

 アカウント名=ハンドルネーム

 ユーザー=ハンドルネーム

 である。


 今思えば、一般人は、後者ですね」


 「アカウント名はユーザーにその自身の名前を付与して、ユーザーがその名前を使用が出来ると。もしくは、アカウント名は、ユーザーの分身である為に、そもそも名乗る事ができるって事?」


「多分そうなのです」


「そうだとしてもかなり難しいんじゃないかな? 名前は”名前!”で良い気がする。深く考え過ぎ」

「そうなのです?」


「そうだよ。だって、そこまで深く考える人なんて居ないんだからさ」

「そうならば良いのです。ただ、その曖昧が後々面倒を引き起こす事になってもしらないのです。これは警告しておくのです」


 そう言って、洗面所から出ていった。

 僕は変な奴だなと思いその後を追う。

 

 多分、今日は雨だ。

 どこからか、水の音が聴こえた。それは流れ落ちる音で、不定期に滴る。


「今日はご飯ってなんだっけ?」

「お覚えてないのです? 冷蔵庫の中身を自由に使って、朝昼と腹を満たすのです」


 そう、ドアを開ければリビング兼キッチンの部屋となる場所で言った。

 ドアを開ける。広さは、十六畳ほどの広さと、隣接するキッチン。

 中央に食卓である、大きな机。セットになった椅子に、水奈が座っていた。

 テレビを見ている。それはニュース。


 薄暗く、テレビに照らされた彼女の顔。


「ご飯どうする?」

 そう、言ってみる。


「何も食べたくない」

 そう、沈んだ声が返ってくる。


「何が食べられる?」

「分からない」

「分からないと言っているのです」


 俯いた顔に、光が灯ることは無い。

 彼女は、きっと、に自信が無いのだろう。

 丸まった彼女の背中に触れ包み込む。


 その感触はいつもの低い体温。それ以上でもそれ以下でも、それ超過でもそれ未満でも無い。

 ただ、普段どおりに、ハグをする。


「何も、変わらない。何も変わらない」

 そう言って聞かせる。


「ありがと」

 そう、水の香りのする声が返ってくる。


 オニギリを作った。

 ご飯を炊いて、ふりかけを混ぜ、ラップで包み、締め付ける。


 轟音。

 そんな音に驚きながらも、机の上に置いてあるメモを見つける。

 

 時々聴こえる轟音は、母性が私達を探すために、爆破しているだけだから気にしないでね。と書いてある。


 いや。まてまて。気にしないでね。は、無理があるだろ。


「さっきから、うるさいね」

 そう彼女が言った。

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