第17話
足早に小さな洗面所から出ていく、教授。そして、そんな小さな空間に取り残された存在が二つ。
「君って名前ってなんて言うの?」
「余に名前はまだ無いのです!」
そう、笑ってみせる。ただ、その笑顔にどの様な心情があるのか全く読み取れない。どこか、プログラムされたキャラクターみたいだ。
「名前ってどんな物だと思う?」
この生命体は、どの様に名前を解釈しているのか気になって訊いてみる。
ただ、返ってきた答えは、想定を大きく上回っていた。
「余の中の”名前”とは、個体を識別するシリアルコードとは全くの別物で、個人の存在などに近い物。個体識別名称のように一種の代名詞ではなく、生き物の生きている事を認める、また、自身の所有者ではなく自分を起点に事を起こす事が可能な単語。ただ、者や余のような人工生物に名を与えてしまうと、上下関係が狂っていまう為に問題がある物。
つまり、自身の意思や身体の操作権限が自分にある事を証明したものが名前なのです。同時に責任や罪も自分が負担する必要があるのです。ただ、愛称と名前の区別がとても難しいです。ペットなどに付与する名前じみた物は、それは所持物である証明です。これは、ここでの名前の定義に反しています。ですので、これは個体識別名称に近い。ですが、それを”名前”と称している現代ならば、”名前”の定義は複数ある事になります。
まず第一に、法的な権利などを得るために必要とされる、”自由な個体、又は存在として認識する為の名称”。
第二に、ぬいぐるみ、人形、愛玩動物とその類などに付与される。”物体、概念への所持証明に使用する名称”。
第三に、名字などの”何かしらの団体などに所属している事を証明する名称”。
第四に、物体及び生物ならば種族のみを識別する”名称自体に意味のない、その個体特有の名称”。
と定義付けているのです! 尚、これは権限に似ていて、時間的または関係的に使用できる権限が変化します。そして、これらの権限、基定義は多重します。あえてこの権限に順位を付けるならば、下から四、二及び三、一とするのです。なお、使用する権限により、名前も変化するのです。しかし、その定義に対応した名前は、定義に対応する権限以上の権限を使用できません。例えば、
佐藤佐奈と言う人間が居たとするのです。
”佐藤佐奈”は、法的に認められ社会的に人権が有る事を確実に他者から証明している名前となります。そして変化後としても機能します。
この名前は、この様に変化。
”日本人” 子供だった場合の”子供” ”
日本人は、日本国籍を持ち、一種、日本の持ち物だと開示として使用できる名称です。これにより、第三定義に該当するのです。
子供は、親の保護下に存在する。つまり、一種の所持物なので第二定義に該当するのです。
ホモサピエンスは、彼女自身を指す事が出来ず、種を表す物になるので第四定義に該当するのです。
以上の話によって、余の中に有る名前とは、名称に権限が結びついた物なのです」
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