第16話

 彼はまだ、話をしていた。

 話の内容は、私の過去、私達の時代の話、アギピド神話。


 彼はどう思ったのだろうか? 私達は愚かで、人間には勝てない生命体。そんな彼は私を、この私をどう思っただろうか。

 私は、どれだけ人間になりたいと思ったのか数え切れない。


 扉が開いた。君だ。シャワーを浴びたのだろうか、髪が濡れている。

「水奈も、お風呂入ったら? ここの浴槽、大きいから」


 口調こそ君らいいが、声が震えて造形物のよう。

「うん。行ってくる」


 そう告げて、私は体制を起こした。

 トボトボと擬音の付いた足取りで部屋を後にする。


 シャワーはどこだろうか? 行く先、道が暗くて分からない。訊く為に、声のする方へ足を進めた。


「おう。アメジストちゃん。疲れたか顔してどうしたんだい?」

「いえ、浴室はどこかなって」


「浴室なら、突き当り右だ。それは良いんだが、ちょいと手伝ってくれないか?」

「何がです?」


 そう言うと、教授? は、かなり大きい試験管を出した。内容量は10L位の。

「この、小人にナノシステムを実装したくてな。ナノマシンの設計図をお願いしたい」

 目を凝らした先に居たのは、その容器に入った人形。

「良いですけど、ナノシステムは何を実装するのですか? それによって種類が変わってくるので」


 名前なんだっけな。と言い首を傾げる。

「そうそう。青だ」

「青?」


「そう、青だ」

「聞いたこと無いのですが」


「青は、RGB系ナノマシンだ。君の今でも使えるか知らないが、緑。母性がサブナノシステムとして使用している赤。そして、最後の青だ」

「あーならハイブリットですね。前動作させていたので」


「助かる。ありがと」


 そう、適当に会話を切る。今は話す気分でも、聞く気分でもない。

 私は、シャワーを浴びた。

 その後、寝室に戻る。


 彼は、寝ていた。

 その寝顔は厳しいものを見たかのような、そんな表情だった。

 彼と勝手に腕を組む。彼に密着する。こんな甘えの強い私では、この世の中の毒から、守れ無いかもしれないけど、ごめんね。

 そう、念が伝わると信じて思う。


 手を繋いで彼の温かみに触れるが、どうも心は満たされない。どこか、抱き枕に抱き着いているかのように錯覚している。彼からのハグのお返しは、未だに無い。

 本当に捨てられてしまったのであれば、いや考えるのはやめよう。


 彼の寝息が深くゆっくりとなっている。

 寝言も言わず、深く熟睡している。


 彼は今何を考えているのだろうか?


 また明日になる。




 地下だからと言って、日が登らない訳ではないらしい。どうやら、日が登る変わりに照明の強度を変えていた。


 そして、横に居る、温かい存在に気付く。


 水奈、水奈は、彼女は、寝ていた。

 起こして良いのだろうか? 昨日から様子がおかしいから、起こすのも悪い気がする。すやすや、寝ているから、良しとする。

 そんな彼女を、僕はそっと頭を撫でながらハグをした。

「人間じゃなくても、君は君だ」


 僕は、洗面所に行き朝の支度を始める。

 今日は、何をしよう? ここは家ではないから、出来る事が限られる。


「おはよございます。教授」

 洗面所には先客が二人? 居た。

 教授と、その足元にいる小さな身長の者。

「おはよ。あ、この子かい? 昨日作ったんだよ。水奈ちゃんの力を借りてね」

「そうなんですね。かわいい」


 顔を洗う。貰った歯磨きで歯を磨く。

 水を含み、流して吐き出す。


「はい。これどーぞなのです」

 そう聞こえたかと思えば、膝あたりにタオルが浮遊している。否、あの小さい者が持っていた。

「あ、ありがと」

「余は偉いのです!」


「教授。この子喋りますよ?!」

「あー、青は優秀だから仕方ない。あ、後、ソイツ君の護衛用だから貰っておいて。返さなくていいいから」

「この子を貰うぶんには良いですけど、護衛用!? 僕、狙われてるのですか?!」

「うん? 大丈夫か? 彼氏君。昨日あれだけ説明したよな?」


「実は、昨日の事はあまりショッキング過ぎて覚えていないんですよ」

「ほう。ならば忘れたままで良い。ただ、君は未来にかなり関わりの有る存在だという事、そして狙われていると、覚えておくように」


「余が、お守りするのです!! だから安心するのです!」

「あはは。余って、古くないかな? でもありがと」

「あ、伝え忘れてた。彼氏君。今日はこの施設の防衛よろしくね。多分大丈夫だけど。飯関係は冷蔵庫の中身勝手に調理して食べてて」


「良いですけど。うん? 待ってください。留守番って事ですか?」

「そうだ。硝子は母性の所いって、俺は屋台をやらなくちゃいけないからな」


「わ、わかりました」

「一応、緊急事態になったら、その名前なんだっけ、「青」を積んだ奴が救助信号を発するから安心しろ、硝子か俺が飛んでくる」


「そういう事では」

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