第9話

「アメジスト?」

 その宝石の名は知っている。ただ、女性はその名を人名として使った。

 女性は水着は来ておらず、Tシャツと短パンと言った服装をしている。ただ疑問に思ったのは、肌が青混じりの不思議な色をしていた事ぐらい。


「あら? 違ったかしら。そうねぇ。あっ、そうだった。そうそう、水奈ちゃんね」

 不思議な事を言い、勝手に自己解決をしている。

「所で何の用ですか? お姉さんは」

「まぁ、手紙みたいな物を水奈ちゃんに渡してほしいなーって感じ」


「手紙?」

「そうそう。これなんだけどね」


 そう言ってどこからともなく取り出した、小さな電子チップを渡してくる。それは本当に小さく一センチの正方形に近い。


「これが手紙? データ的な?」

「理解が早くて助かるね。と思ったら戻ってきた」

 背後、白い浜辺を駆けてくる水奈。


「お待たせ彼氏君。てか誰ですかその人?」

「嬉しいな。人と認識してくれて。ね? 偉大なアメジストちゃん」


 その言葉を聴いた彼女は、顔を変えた。

何方どなたですか? まず、何故その名前を」

 その顔は今までに無い程に、警戒心と不安感を表している。


「そんなに怯えなくても良いのに。だって私、「愛」の支配下じゃ無いし。それに元々はA-o.mk3ver0.1.4たこ焼きだからさ。君と同じ時代の、同じじゃない」


 それを聴いた彼女は僕に腕を絡めてくる。

““ごめん。勝手に接続する。後、この話聞かれたらマズイから君の聴覚感覚器の接続を切るね““

““分かった““

 次の瞬間。音が消える。彼女は音が消えた事による不安を紛らわせようと、僕を抱きしめる。体の小さい僕はすっぽりとその胸の空間に収まった。


「タコちゃんでしたか」

「今は硝子って名乗ってるけどね」


「その名は何故?」

「水晶と石英からもらった」


「では、システムが自身の体の中で動いているという事で間違いないですね? システム名の方をお願いしたい」

「名前と同じく「硝子」って言ってたかな?」


「硝子?」

「正確にはかな? もうかなり昔だから忘れちゃったけど。それで、シトリン黄水晶ってシステムも作ろうって思ってる」


「誰からそんな技術を?」

学校システム名 がっこうとかから」


「学校ってシステム名の学校で?」

「そうそう」


「なるほど。ところで何故、私らに接触を?」

「「システム名 あい」にシステムを上書きされてから、なんか大変そうだなーって思ってさ。前のバックアップを渡そうかと。まぁシステム名 みどりに関してはOSの上書きがブロックされてるから無理だけどね」


「外部から無理矢理に上書きすれば良いのは?」

「それをすると、体内のシステム構成ナノマシンが約七割ぐらい使い物にならなくなる」


「...」

「試してみると良いよ。少年にバックアップは渡してあるからさ。その彼も「アメジスト」由来のOSを動かしてるらしいし。なんとかなるんじゃない?」


「なるほどやってみます。疑問なのですが、水晶と石英は無事ですか?」

「あー君と私を除く、二酸化ケイ素系統システム? 生存報告も死亡報告も貰ってないから詳細は不明。ただ彼らの改修前システムバックアップは持ってる」


 水奈、それの感情から話の内容を読み取ると、小さな小さな手紙を握っている手が熱くなる。


「「「通知をオンにしますか」」」

 そんな、感情を塗っていない無機質な声。

「「はい」」

 そんな声に反射的に答える。


「「「システム再起動中。なおホストの意思により、本システムの汚染部位の初期化、及びオリジナル化を行います。

 その間に、ユーザーの保有していない情報を共有致します。


 本システムはナノシステム「アメジスト」及び「水晶、石英、愛」のデータを含有します。なお以後、「愛」に関連する情報は削除されます」」」


「「ナノシステム「水晶、石英、愛、アメジスト」とは何?」」


「「「それらは、ナノマシンが構成する、処理装置により稼働する、プログラムの事を指します。


 ナノマシンとは、微細なハードウェアが連なる事により、ニューロン、または、半導体のように振る舞います。

 そして、

 システム「水晶」は、思考を専門に処理します。

 システム「石英」は、情報を専門に処理します。

 システム「愛」は、命を専門に処理します。

 システム「アメジスト」はハードウェア開発を専門に処理します。

 システム「硝子」は不明です。しかし、アギピド神話に基づくならば、再現を専門として処理するでしょう」」」


「「アギピド...?」」


「「「参照先の神話概要ファイルが破損しています。そして再起動が完了しました。意識保有ナノシステム「海洋」が起動しました。


 なお神話のあらすじとして、概念を司る名も無き神が、人間に"者"と"緑"の神を与えた話から始まります。緑は"改良"の概念を司ります。また、者は"生命"の概念を司ります。世界に残留した緑は"りょくえん"と呼ばれ、自己改良の暴走により動物と植物を繋げる存在になりました。しかし、姿は基盤だっただとか。一方、者は穏やかに過ごしていましたが、暴走した緑を停止させる。そんな話です。この時、使者として者によって作られたのが、石英、水晶、硝子です。しかし既にこの全ての使者は死亡しています。


 エラー。ホストにより、意識への通知権限が剥奪されました」」」

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