第5話
「感覚? そもそも、これは?」
「言ってなかったっけ? 私はちょっと不思議な能力があるんだよ。体温が多少、低いのはそのせい。君気が付いてたでじょ?」
「ちなみに、能力の名前は
その後の事は何も覚えていない。その時、歩いた通学路、さぞ安心した空気感と、それを取り巻く熱気。そんなものがあったのだろうと、容易に想像できる。
そして、実質的な意識の復旧は自宅の玄関の前に着いた頃。
「どうぞ入って」
この言葉の後に、意識が完全に戻った。
「うん。ありがと」
僕の自室に入る。だけど彼女との手はつながったまま。
「なんか腕だけの感覚が共由されるのは気持ち悪いから全部繋げちゃうね?」
「どういう事?」
「やれば、わかる」
何かが流れる感覚が腕であったと思いきや、気づけば頭までその感覚は膨れる。
「はい完了。どう? 何か感じない?」
「なんか胸が重い」
「そうだよね。この大きい胸、重いよね。でも好きでしょ? ほらこうやって揉み解すのとかさ」
「まぁ」
無いはずの左手が、柔らかいそんな感触に触れた。
驚く、そんな顔は横目で、彼女は悪戯っぽく話を進める。
「暇だね」
そんな言葉。
特に何も無い男子の部屋って感じの空間に、確かに複数人で時間が潰せそうな品物など無かった。
「何する?」
何かを求める様に、訊いてみる。
「何でもいいんじゃない? この能力で遊んでも良いけど」
「あ、うーん。遊びたいけど抵抗が凄い」
「確かにね。遊べば離れててもテレパシーとか出来るかもだけど」
「テレパシー?」
「そうそう。テレパシー。今は繋がってるから出来ると思う。まぁ生物上、"一つ"だから当たり前だけど。やってみる?」
そんな問いに頷く。
""聞こえますかー? 君が大好きな彼女さんですよー。伝え方は簡単で、繋がってる手のひらで喋る感じ""
消えてなくなった手を唇のように動かそうとする。だが、良く分からない。
""こう?""
""そうそう。ここでは言葉だけじゃないくて言外、感情とかも伝えられるから以外に便利だよ""
""「嬉しさ、照れ、恥じらい」""
""感情ダダ漏れだね。かわいいなー。「保護欲」""
""そっちもね""
「こんな感じです。結構良いでしょ」
""そうだね""
そんな会話が続く。
水飴のように、ゆったりと甘く濃い空間。
それに拍車をかける、感情と言外の共有。
だけど、煮詰まれた空間は焦げる事も変色することもない。
ただ、甘い匂いと温かみのみを感じる。
""「大好き」"" それが蔓延る空間で。
窓に黒い厚紙が貼ってある。帰る気が全く無いと言って良い程の少女は、家に泊まる事にした。
僕の母には「両親が今日、急用で帰る事が出来なくなった」少女が独り家に居るのはどうなのか、と言って。でも、案の定それは、真っ赤な嘘。彼女に両親など居ない。事故で亡くなった。そう言っていた。
母は快くそれを受け入れる。
ただ、僕に「何もするなよ」と釘を刺した。
「理解のある、お母さんで良かったね」
「そう?」
「そうだよ」
彼女はそう、笑う。
依然として手は溶けて一つのまま。
「解いたら?」そう訊くと、相手は"「不満」"を覚えた。
寝静まる夜。僕らは二人で湯船に浸かる。当然、"手は歪んだまま"。
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