第11話 ボジョレーヌーボーを飲んでみた

 グルメにおいて、なにか今までやったことのないことをやってみよう、と思い立ち、ボジョレーヌーボーを飲んでみることにした。


 ボジョレーヌーボーの詳しい説明は省くが、乱暴にまとめると「『フランスのボジョレー地区でその年に収穫したぶどうで醸造したやで』の認証つき赤ワイン」のことである。晩酌をする文化のない自分にとって「晩飯時に酒を飲む」という行為自体が既に特別なきらいはあるが、これは確かに今まで「やったことがない」ものだ。


 世間的には晩酌として赤ワインを喫飲するワイン愛好家の増加が見られるというが、おれはその意見には懐疑的である。ワイン、特に赤ワインともなると、料理との相性問題がなかなか避けられず、特に和食や中華寄りのおかずが多いおれの家での晩酌には絶対合わないのではないか、という思いが長年あったからだ。


 ボジョレーヌーボーを飲むにあたっても、どうしてもその不安が払拭できなかったので、ボジョレーヌーボー専用の「アテ」としてローストビーフとチーズ、サラミ、ピスタチオ、アンチョビをそれぞれ購入した。購入にあたってはコンビニエンスストアが至便であり、前述したすべてのもの(当然ボジョレーヌーボー本体も含む)がそこで手に入る。かなりお手軽なのだが、不思議とやってこなかった組み合わせだ。


 そそくさと帰宅し、夕餉の時間となる。おれだけボジョレーヌーボー一式を自席に配置すると、さっそく子供がサラミなどに興味を示すが、これは黒胡椒が多いから子供には辛いと説明する。駄々をこねるので結局あげるのだが、匂いだけ嗅いで戻ってきた。


 食器棚の奥でホコリを被っていたワイングラスを洗い、よく乾かしたのち、ボジョレーヌーボーを3分の1ほど注ぐ。匂いを嗅いでみるが、まあワインの匂いだな~、という感じ。少し口に含んでみると、赤ワイン特有のエグみは少なく、そこまで飲みづらくはない。若干だがぶどうのフレッシュさを感じる味わいだ。


 香りや味などを試しながら飲み、とりあえず720mlのボトルを3分の1ほど開けたところで、一旦は終わりにした。ちょこちょこアテもつまみながら喫飲したこともあり、割と充実した晩酌になったのは幸いだった。


 やってみてどうだったか?という点については「まぁこのくらい準備してやるならそりゃ充実もするか」というのが正直なところだ。スモークサーモン、バゲット、シメのパスタなども動員できればもっと腹いっぱいにすることができたのかもしれないが、それにはコストも時間もかかりすぎる。なにせハマったらハマったでブルゴーニュ地方へ巡礼したりしなくてはいけなくなる可能性が否定できない。


 普段やらないことをたまにやるから新鮮味や非日常感があって楽しいのであり、このような組み立てを毎日アグレッシブにやるメンタリティはおれにはなさそうだ、と改めて感じ、レモン酎ハイで口中に残るワインの余韻を流し込んだ、秋の夕餉であった。

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