第8話 牧場グルメの違和感

 牧場には牛や羊などの家畜(経済動物)がおり、モーやメーと鳴いていたりする。観光牧場の場合は馬に人参をあげたり、うさぎをなでたりもできる。程度の差はあるだろうが、おそらくだれもが、一度は行ったことのある場所ではないかと思う。


 ところで、観光牧場などは特にそうなのだが、動物とのふれあい、などのレジャーのほか、昼食・夕食など各種食事を頂ける施設があったりもする。そしてこれもまた牧場の種類によるが、供されているのはだいたい「バーベキュースタイル」のものであったりする。


 牧場で何を食べるか?と言われれば、ソフトクリームやパンなど軽食のほか、それなりにちゃんとした食事を、という場合に関してはほぼバーベキュースタイルのもの、というのが一般的ではないかと思う。まあバーベキューというよりはほとんど「外で食べる焼き肉」なのだが(厳密にはバーベキューと焼き肉は違う)、そこはなんとなくでも通じるだろう。


 しかし、牧場でバーベキューとなると、改めて考えなくても、直接的すぎないか?という違和感が出てくる。スイーツは牛乳だからまだアレなんだけど、肉は直接的すぎるのではないだろうか。いや、一番コスパに優れたメニューとしてそうなっているのはわかるし、実際安く美味しく食べられたりはするのだが。


 果たしてファミリーなどがワイワイとやってきて牛や羊と触れ合ったあと、またワイワイと移動してバーベキューサイトでにぎやかに食事をするのだが、その際に食べるのは数分前に触れ合っていたモーちゃんメーちゃんの同胞だったりするわけである。ここに違和感の正体がある気がする。


 牧場で食べるバーベキュースタイルの食事と、牧場以外で食べるバーベキュースタイルの食事には、正直、味にそれほどの差はないと思う。肉の鮮度などは関係あるかもしれないが、だからと言って「今あそこにいる牛や羊をバラして食べるとすごく美味しいです」みたいなことが起こったりするわけではないし、そこまでバーベキュー客が望んでいるかというと、そんなこともないだろう。


 じゃあ「牧場でバーベキューを食べる」という行為に何らか背徳感のようなものを感じるから、牧場以外と比較してうまいと感じるのか、というと、それもなんとなくだが違う。そこまでの背徳感は感じないし、人によっては「なんだか申し訳ないよなあ、うまいけど」という心持ちになったりすることのほうが多いのではないだろうか。


 ただ、だからと言って牧場でバーベキュー以外のものを食べようとするとどうなるだろうか。食事としては足りるかもしれないが、なんというか「牧場ならでは感」が失われてしまいそうな、そんな雰囲気になる。居心地に対する違和感があるとしても、やはり牧場ではバーベキューを食べるのが、なんとなく正解なのではないか、という気がしてくる。


 視察の一環で水田を見学したけど昼食はパンだったとか、りんごの果樹園へ行ってりんご狩りを楽しんだけど貰った加工デザートがみかんだったとか、漁港の近くのホテルに泊ったけど夕食はステーキとか、たまにこういう「それとない違和感」を覚える食事シーンはある。個人的には牧場グルメもこれに該当すると思っているが、その違和感を払拭することで、新たな美味を味わうことが出来る場合もあろう。違和感もまた、味の構成要素の一つなのではないか、と最近は考えている。

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