第6話 焼肉弁当

 アラフォーを襲った変化の一つとして、揚げ物が苦手になったというのがある。


 若かりし頃は、唐揚げだろうがコロッケだろうが天ぷらだろうがフライだろうが、それが冷めていようが昨日の夕飯の残りだろうが、だいたいレンチンしてソースでもかければ、なんなくいただけていたのだが、アラフォーになったところで如実にダメになった。箸はすすまないし、食べても昔ほど美味しいと感じない。決して嫌いな料理ではないのだが、なんというか「食べたいというモチベーション」に「苦手意識」が勝ってしまっている、という状態といえば、共感していただけるだろうか。


 が、その反面、焼肉やステーキについては、まだまだ「苦手」というにはほど遠い状態である。魚もフライにしてあるとゲンナリするが、焼き魚であれば問題ない。焼いてあると余分な油もあんまりついてこないから、理にはかなっているのだろう。


 コロナ禍において外食そのものが制限されたため、焼肉店には行かず、自宅でホットプレートなどを設営し、焼肉を食べるということをしたりもしたが、あれもあれで片付けが面倒なので、そこまで毎日できるわけではない。


 そうすると、焼いた肉を食べるというときに何が一番良いかというと、本当の理想で言えば「焼肉定食」がいいのだが、あれもあれで小鉢がどうとか、肉の枚数とか、色々考えることは多く、毎日食うには不向きだ。


 じゃあどうするか。


 などと考えていると、妻が買い物から帰ってきた。昼食を作るのがおっくうだし、午後から早めに仕事をしたいので、スーパーで2人ぶんの弁当を買ってきた、という。おれもテレワークを中断し、弁当をいただくことにする。


 そこには「焼肉弁当」があった。甘辛いタレで味付けされ、ほどよく炭火で焼かれた牛の「焼肉弁当」である。付け合せは柴漬け。ごはんは中盛程度か。


 ここでピンときた。


 そうか!「焼肉定食」のミニチュア版として「焼肉弁当」を食べればいいのか。


 自分で「焼肉弁当」を構成するなら、最悪「焼いた肉とメシ」だけでいい。肉は何枚焼いてもいいし、タレの濃さも自分で選べる。敢えてタレがしみたご飯もうまい。付け合せも基本的にはなんでも合う。温めるのも楽だし、冷めていてもそれなりにおいしい。


 おれは妻が買ってきてくれた弁当を食べた。ふだんの食事量からすると「腹5~6分目」といったところだが、不思議と満足感が高いのだ。やはり「焼いてある肉を食べた」という意識が働くからだろうか。


 基本的には自宅で作ったり、簡単にレトルトやインスタントで済ませたりしていた昼食だが、おれはこれ以降、機会があれば「焼肉弁当」を買ったり、あるいは自分で作ったりして食べている。買ってきたもの基準で考えると、カロリーは揚げ物のそれよりかは低く、それでいて満足感が高い。


 いろいろ試したが、付け合わせは「青菜」と「キムチ」が合うことがわかった。青菜はほうれん草とか、そんなのでよい。キムチは一家言ある人が多いかもしれないが、これも基本的にはなんでもよい。個人的にはカクテキあたりが白眉である。


 昔東京で仕事をしていた頃、たま~に(数年に一度のレベルです)叙々苑の焼肉弁当にありつけることがあったのだが、あれのうまさを改めて思い出した。叙々苑の焼肉弁当は、どういう理屈かは分からないのだが、冷めていてもかなりおいしく、量は少なめながらも満足感が異常に高い。キムチにいたっては白菜と細切り大根の二種類が入っており、こちらもかなりのおいしさである。


 ちなみに叙々苑の「上カルビ焼肉弁当」は3,100~3,800円(税込み。店舗によって値段の違いがある)ほどする。もはや価格的には「焼肉定食」の領域に入ってしまっているのだが、それのミニチュアでここまでうまいんだから、もう実質焼肉定食、いや、焼肉っしょ、という具合なのである。


 まあ、別に叙々苑でなくても、牛肉を焼肉のタレで焼いたやつとメシと付け合せ、という感じであれば、もう「焼肉弁当」になる。手頃ながら高い満足感とコスパを誇る「焼肉弁当」を、みんなも昼食にガンガン食べよう。

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