第5話 日本酒とにぎり飯

 おれは基本的に酒をあまり飲まず、日常的に晩酌するということもないが、酒自体はそれほど嫌いではない。


 酒は何が好きかと言われると、まあ日本酒かなと思う。ビールだとすぐお腹いっぱいになるし、ウイスキーはつまみとの相性がシビアめだし、ワインは渋みが、焼酎は匂いがなんとなく好みではない。東北の米どころで暮らしている、というのも理由としては多分にあろう。


 気のおけない飲兵衛の友人曰く、おれは「酒そのものよりも、おつまみとの相性をとにかく気にする、いわゆる『こだわり晩酌』タイプ」らしく、だって酒だけだとあとでお腹減るじゃん、どうせなら酒で食事じゃん、とかいろいろあったりはするので、まあそんな感じかもな〜とも思ったりはしている。


 で、おれはそこまで日本酒に詳しいわけでもないし、毎日飲んでいるわけでもないので、日本酒のアテ(いわゆるおつまみのことです)について書くのは、ちょっと気後れしてしまうところもなくはない・・・のだが、今回はあて、じゃねえ、あえて書いてみたい。


 一般的に、日本酒にもっとも合うアテと言われれば、それはだいたい「その日本酒の産地の名物」だったり「それを飲んでいる場所の名物」だったりすることが少なくない。肉か魚か野菜か、その土地によって名物である材料は異なるが、多くの場合において、地のものはだいたいその土地で作られた日本酒と合う。これは酒好きの人には概ね同意いただけるのではないかと思う。


 で、だ。


 おれは日本酒に一番合うアテは「にぎり飯」だと思っている。あっ、閉じないでください。一応最後まで読んでください。


 「酒を飲んでいるというのに、なぜ、やおら、にぎり飯を食べだすのか」などと怪訝な顔をされることは承知の上で書くが、そもそも日本酒の原料とは何だろうか?


 そう、米だ。


 米というのは「日本酒の原料」そのものである。つまり「日本酒のアテとしてのにぎり飯」というのは、ほぼ日本酒そのものであり、なんならほぼ同じもの、といってもいい。原料とそこからつくった加工品であれば、よほど奇天烈なことをしないかぎり、相性問題がおこることはない。


 飲兵衛界隈ではこれを「無難すぎる選択」とする向きもあるらしいのだが、おれは酒とアテであんまり冒険はしたくないタイプなので、一番無難でおいしい組み合わせがあるのなら、積極的にそれを選んでいきたい、という感じになっている。


 実際「日本酒 おにぎり」で検索してみると、それほど数は多くないが、たしかに「日本酒と、ベストなおつまみとしてのにぎり飯」をセットで出すお店がチラホラあったりする。おれはそもそも「日本酒とにぎり飯」の組み合わせがベストだと思っているのでなんら違和感はないが、改めて調べてみても、わりと「アリ」とされている組み合わせなのだろう。嬉しいかぎりだ。


 なお飲酒というと「シメのラーメンがうまい」といった言及がかならず発生するが、あれは相性というよりは肉体反応的な要因であるので、個人的にはちょっと賛同しかねる(うまいのは認めるが)。アテ、おつまみとしてなら、やはりにぎり飯だろう。


 日本酒とにぎり飯を一緒にやっていると「ゼロからイチでつくられたものを頂いている」感覚がすごく、しみじみと美味しさを感じる。酒のアテというと「主役は酒」というポジションに行きがちなこともあるが、日本酒とにぎり飯は、そこまでイニシアチブでもめる感じはなく、なんというか「食事の一環」という感じがしてくる。


 なのでおれとしては、ぜひおいしい日本酒にはおいしいにぎり飯をアテにしてほしいと思う。「酒を飲む」というよりは「いただく」感覚が強いが、元来、地のものを頂くというときは、そういう気持ちになったりすることが少なくないではないか。

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