第3話 SKG

 シチューをご飯にかけると、TKGよろしくSKG、つまり「シチューかけご飯」になる。場合によっては「シチューライス」などと呼称する場合もあったりするが、とりあえず「シチューかけご飯」で今回はやっていきたい。


 シチューミクス大手のハウス食品が2016年に消費者投票9万票でもって調査したところ、マイノリティと思われていた「シチューをごはんにかける」派は、実に全体の42%も居たらしい。


 そも「シチューをご飯にかけること」を青天の霹靂の如くショッキングに解釈する人も居たりするが、それでも100人中42人はこれを何ら違和感なく行っているのである。半数には届かないものの「決して無視はできない」程度には高い数値、と言っていいとおれは思う。


 おれはもともと「シチューはご飯にかけて『も』食えるもの」という解釈なので、シチューをご飯にかけることになんの抵抗もないが、シチューを一品料理と解釈する人にとってはこれがそもそも驚くポイントなのだという。いくらそれがおかずとしてご飯に合うから、といってかけるのか?肉じゃがとかご飯にかけるの?でも麻婆丼とかあるよね、五目丼は?などなど。


 まあ、かけない派の人はそもそも牛皿や納豆などといった「明らかにご飯にかける食べ方のほうがマジョリティ」なものに対しても否を唱えたりする・・・というケースもあったりするので、一概に言えないというのはある。こういうのは「ご飯を汚したくない」という隠れた主張であることが多いので、例えば「焼肉をおかずに米飯をいただくのはアリかナシか」「米飯のおかずとしての刺身はアリか」といったような問答でこれを判別することができる。


 ただ、そんな禁忌行為とも解釈できそうな方法によって、隠遁を余儀なくされていた「シチューかけご飯」も、数年前に「シュクメルリ」というジョージア料理が流行ったことで、ある程度日の目を見ることに成功したきらいがある。シュクメルリは鶏肉・玉ねぎ・じゃがいもなどの具材をホワイトソース・にんにく・チーズなどで味付けした煮込み料理の一種で、文脈はほぼシチューのそれと同じと言っていい(いいですよね)。


 シュクメルリそれ自体は、料理としてご飯にかけることは想定されていないものであったが、牛丼チェーンの松屋から「シュクメルリ鍋定食」がドロップされたことで「白い煮込み料理であっても、ご飯にかけて食べてよい」というコンセンサスが一気に広まった。これにより「シュクメルリかけご飯(SKG)」に加え「シチューかけご飯(SKG)」も、棚ぼたで市民権を得ることに成功したのではないか、とおれは考えている。


 その後また、ファミリーマートから「ごはんにちょいかけ!シュクメルリ」が矢継ぎ早にリリースされたことで、この流れはより確固たるものとなった。もう何人も、白い煮込み料理を堂々とご飯にかけて食べてよいのである。おっと、否定したってシュクメルリ鍋定食があるもんね。へへん。などといった感じかどうかは分からないが、そんな具合である。


 そのものズバリの「シチューかけご飯」を大声でやっていくにはまだまだ厳しい場面があるかもしれないが、最低限の土壌はシュクメルリによって開拓されたと言っていいだろう。ここから「シチューかけご飯」が大躍進するかどうかは、かける派の皆さんの頑張りにかかっている。

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