三章 王都へ花嫁 終

 シウスの提案を一蹴するベアトリーチェ。


「い、いやって、っな……なんでだよっ。意味がわからねー、このままじゃ死刑なんだぞ?」


「だって、容疑をかけられたまま逃げ出したら、私王殺しのレッテルを背負って生きていくことになるじゃないですかっ! いつか出会う未来の旦那さまに実は私、王を殺した罪持っているんですよね。なんて言えますか? 言えないですよね? 到底言えません! いや~、ちょっと王様殺した人とは結婚できないな~って言われるのがオチです! このままでは私は王を殺したために結婚できない女になるではありませんかっ! そんなことになれば後ろ指さされて笑われるのがオチです!」


 ベアトリーチェは腕をはげしくふるい、激情に身を任せきっぱりと言い切る。


「……い、いや、笑われるってことはないと思うけどな」


 ベアトリーチェの目がどこか血走っていたのでそれ以上の反論は控えた。


「じゃ、じゃあどうすんだよ?」


「真犯人を見つけ出し、私たちの前に引っ張り出します」


「見つけるたって……、俺達ここから出れねーじゃねーか。ちなみにジャンなんか当てにできねーぞ。そりゃいくらか動いてくれるかもしれねーが、結局やつは城の人間だ。この城にとって都合が悪い奴が犯人だった場合見捨てられる可能性はゼロじゃない。ということは自分らで真相を暴かなければいけない。だが俺らは動けねー、どうやって真犯人見つけるんだよ」


 自分で言っていて現状の絶望的すぎる状況にまいったと手をあげたくなる。


「私を誰と思いですか? 最高の花嫁を目指す者。ここまで言えばもうお分かりでしょう?」


 ベアトリーチェはウインクをする。


「いや、わかんね――」


「そのとおりです。この方法でいきます」


「聞いて話」


 ベアトリーチェは宙に何かを描くように指を走らせる。

 ヒュっと宙を走る指の後に光が散布していく。


「――なんだ? 魔法の類か何かか? この牢の鉄格子はミスリルで出来ているから魔法と名のつくものは吸収しちまう。ビクともしないぞ?」


 魔法の光は宙に止まり、その光の先に並んだ甲冑が映しだされる。これは王宮の中?


「ゴーレムさんと私は魔力を通して繋がっています。これはゴーレムさんの視界ですね」


「どうやって……目の前にはミスリルでできた――、そうか目の前にしかミスリルはない。周囲の壁はどんなに分厚くともただの石壁か。そこからなら魔力を繋ぐこともできるってわけか」


 シウスは種がわかるとなるほどなと感心する。

 そして改めてこのゴーレム使いは只者ではないことを再認識してしまう。


「ん? ちょっとまて、これゴーレムの視界の映像なんだよな?」


「そうですよ」シウスは首を捻る。


「ゴーレムどこにいるんだ?」


「もち王宮の中、玉座の間へと続く甲冑が並んだ通路。ゴーレムさんには今回その甲冑の一体として潜んでもらってます」


 甲冑の中にどでかいゴーレムが混じっている絵を想像し一瞬立ち眩みを覚える。


「いやいやいいや無理あるだろ? というか気づくだろ? というかおかしいだろ? 違和感どころの騒ぎじゃないだろ? てか騒ぎになってないのか!?」


「シウスさん、ふう、少し落ち着きなさいな」


 ベアトリーチェが年上の雰囲気をかもし出し、混乱するシウスを嗜めるような目を向ける。


「ぬっ」


「ご安心ください。周囲の人たちには普通の甲冑に見えております」


 甲冑の間を通り過ぎていく神官やら女中はゴーレムを気にするそぶりもなくす通りしていく。


「……、そ、そうか、そんなこともできるんだな」


 シウスはどこかドルイドに幻を見せられたような気分になりしばらくほうけてしまう。


「魔法によってゴーレムさんに向けられる視線はすべて甲冑として映るのです」


「す、すごいな」


 もはやこいつはなんでもありなのか? ん? というか、ゴーレムを看守の姿に見せこちらに呼べば牢を開けてもらい逃げることが可能じゃないか? そんな算段が脳裏にちらつく。


「な、なあ? ものは相談なんだが俺は別に――」


「っさあ、シウスさん! 私達にかけられた濡れ衣をはらしましょうぞ!」


「少しは話を聞きやがれこのメルヘンイカレやろう」


 聞く耳を持っていない血走った眼で宣言してくる女にがっくりと頭をうな垂れる。

 そもそも俺は完全なるとばっちりなのに、こいつ私達とはっきり言い切りやがる。


「でもよ、どうやって、その犯人を見つけだすんだよ?」


 シウスはこういう輩にはもはや何を言っても通じないと反論することを諦めていた。


「私を誰と心えているのですかシウスさん」

(頭のとち狂ったメルヘンおばさん)とはシウスは口が裂けても言わなかった。


「私はこの世界にはおいて最高の花嫁になるために修行を行なっているゴーレム使い! ならば答えは一つ! ゴーレムさんを使い容疑者に最高の花嫁として忍びより有益な情報を引き出し、犯人を突き止めるのです!」


「…………つまり、どういうこと?」


「最高の花嫁として接近を試みる! すばらしい作戦。私の花嫁修業にもなりますし、なにより王様を暗殺した犯人を見つけだすことができます!」


 ベアトリーチェはがっちり拳を作り、天に突き上げ高らかに宣言する。


「おい、さっきから騒がしいが何か禄なことを考えているんじゃないだろな?」

 気づけば看守が毛布を手に立っていた。


「「いえ、全然」」

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