二章 幽霊船の花嫁④

「ありゃーミスリルじゃねーか?」


「ミスリルって確か魔法耐性を持つって呼ばれている金属? 確か別名『妖精の金属』」

「ああ、しかもありゃ刀身にルーンの文字が刻まれてやがる。エルフの鍛冶師が打った業物のようだ」

「エルフの鍛冶師? エルフってのは金属と炎がダメだったんじゃなかったのか?」


「その通りだ。本来エルフは金属を毛嫌いする特に鉄だな。だがミスリルってのはその性能上唯一エルフが好む金属と知られている。別名を『妖精の金属』って呼ばれている由縁だな。エルフはミスリルを特殊な技法で武器へと加工するらしい。その技法は門外不出ってらしいからどんな方法かはしらねーが。俺も小耳に挟んだ程度で実物は初めて目にするぜ」


 筋骨隆々の冒険者が羨ましそうにシウスの剣を眺める。

 若者冒険者もまた感嘆の息を洩らしている。


「ふぁー、立派な剣ですね。さぞかし値打ちのあるものなんでしょう?」

「ん? ああまあな。これ一振りで王都の高級住宅街に家が持てるぐらいとだけいっとくよ」


 女の目が驚愕に見開くと次にはすっと細まる。


「へー、それは大層いいものをお持ちで」


「――っ?」


 シウスはその女の剣を見る眼差しに嫌なものを感じ取る。


「い、いやまあそんなに見せびらかすものじゃあないな」


「ああ、もっと見せてくださいよ」


 シウスはその眼差しから逃げるようにささっと剣を鞘に収める。


「まあ中にはあんたのいうように莫大な財宝を見つけて一生左うちわなやつもいないわけじゃないが。そんな幸運な奴は、ま、まあ一握りよ。間違っても楽して稼げる生業じゃあないな」


 周囲の冒険者もうんうんと頷いている。


「ちなみに今回の報酬は?」


「ん? 今回か? まあ、今回はまあ悪くはないな五百万ルノだ。こいつを今回のクエストが成功したあかつきには参加した冒険者同士で山分けって――って、あんたは冒険者でクエストを受けてこの船に乗ってんだよな?」


 女は小麦色の瞳をぱちくりさせ、人差し指を頬にあて小首をかしげる。


「違いますけど?」


 あっさり告げられ、シウスの額に青筋が立つ。


「おい。ちょっと待て。じゃあ、なんでこの船に乗っているんだ? この船にはギルドから派遣された冒険者か、船員しか乗っていねーはずだが?」


「……しまった」


 ベアトリーチェがさっと視線を逸らす。


「おい」


「そのー、……お師匠さまのお使いで、晩のおかずを調達しにきたしだいで、タハハ」

ベアトリーチェが釣竿を「これ、ほら、これで、ね?」と上目づかいで示してくる。


 なんだか今度は怒りが沸いてくる。


「お使い? 晩のおかず? 何を釣るつもりだ!? 何考えてんだ。ここは危険なんだ。あんたみたいなどん臭いのは命がいくらあっても足りない! 船内に引っ込んでろ」


「ああ、いえ、その……ああ、いやああうう――」


 ――バタン。


 いったい誰がこんな女を船に乗せたのかと周囲をにらみつける。なんでクエストとは関係のない緊張感で変な脂汗をかかなければならないのかと心中、毒づく。

 だが、そんなことを追求しても問題の解決にはならないことに額に手をあて嘆息し、ご丁寧に動きを止めた難破船にしきりなおすように視線を向けた。


 船は早く乗り込んで来いとばかりにその場に止まっている。


「いいぜ。とりあえずお迎えの幽霊船にお招きに上がりますかね。どんな大物が迎えてくれるのか楽しみだ。おい、あの船に乗り込むための小船をだしてくれ」


 シウスの言葉に、船員達が小型廷を着水させ、血気さかんな冒険者たちが乗り込んでいく。


「あの船に大物がいるんですね!? これは花嫁修業がいがありますね。よいしょっと、あ、すいません。そっち少し詰めてもらってもいいですか?」


「ん? ああ。悪い」


 船の墓場とかした霧の海を一隻の小船が冒険者達を乗せ、ゆっくりと漕ぎ出していく。


 そんな後ろ姿を見ていた船員がつぶやく。


「そういや、なんであの女の人をこの船に乗せたんでしたっけ?」

「いや、あんな女じゃなくて、なんかでかい奴を乗せた気が……」


 甲板では船長と船員がぽりぽりと頬をかく。

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