第19話
赤嶺と青島に共通していることとして、彼女たち二人は宝石のような発色の良い黄金の瞳をしている。
それが魔術師特有の特徴なのかは情報不足のため判断しかねるが、確実に言えることは彼女たちが人格を乗っ取られた場合に、その瞳の色が変化するという点だ。
赤嶺による俺の名前の呼び方突然変化事件などがいい例で、普段はアンティックゴールドの瞳があのときは燃えるような紅蓮の色に変色していた。
青島も同様であり、二人とも未来の人格に主導権を奪われた際は、自身の髪色に近い瞳になってしまう。
これこそ未来と現在を見分ける際の重要なポイントなのだ。
「ん。そと涼しい」
「こんな汗かくぐらい張り切るとは思ってなかったわ」
「如月、あたらないように頑張ってた」
「……まぁ避けることくらいしかできないからな。球技は苦手なんだ」
体育館の外は涼しげな風が吹いていて、火照った体がだんだんとクールダウンしていくのを感じる。
このなんでもない普通の会話がとても嬉しい。
なんとも学生らしい瞬間ではないだろうか。未来がどうとか、命の危険だとか、そういった物騒な話題が飛んでこない。
「あっ……体育館にスマホ忘れてきちゃった」
「俺は一人でも大丈夫だよ。また追いかけてくるのも大変だろうし、取りに戻ったらそのままみんなといてくれても──」
「んーん。取ったらすぐそっち向かう」
駆け足で体育館のほうへ戻る青島。
突き指の付き添いにそこまで真剣にならなくてもいいと思うのだが。
何が彼女をそこまで駆り立てるのだろう。
「わたしも保健室でサボりたいので」
「最初からそれが目的か……」
優しくしてくれる理由が意外と現金なもので、逆に安心した。
そのまま青島を見送った俺は、一足先にサボり場へと向かっていく。
張り切っているクラスメイトたちや中嶋には悪いが、今日のところは控えで休ませてもらうことにしよう。
◆
──なんだ?
「ごめんなさい……先生は悪くありません」
保健室の前に到着すると、扉の向こう側から聞き覚えのある声が漏れ出てきた。
思わず立ち止まり、いったん周囲を確認する。
誰もいない。
保健室の前で立ち往生という、結果的に怪しげな挙動をしてしまっている自分を見ているものは誰もいない。
これならもう少し様子見をしても問題ないはずだ。
扉に耳を当て、教室内の声に集中する。
「……大我のために死んでください」
「っ!?」
聞き捨てならないセリフに肩が跳ねた。
俺の認識違いでなければ保健室の中にいる人物は──赤嶺だ。
考える間もなく焦って扉を開ける。
「おいっ!!」
不快感たっぷりなデカい音をたてて保健室の扉を開放すると、予想通り中の人物は驚いたように足を止めた。
「…………大我」
「赤嶺おまえ……なにしてんだ?」
さくらだ。
まず教室の床には白衣をまとった女性がひとり倒れており、中にいた赤嶺はその女性を見おろすように鎮座している。
赤嶺の瞳の色は烈火のごとき赤色──つまり彼女はいま未来の人格で。
なによりさくらに乗っ取られていると思わしき彼女の右手には、灼熱の炎が纏われていた。
「命のストックを……といってもわからないか。今のキミはまだ何も知らないもんね、如月くん」
「は……?」
こいつ、いま俺のことをなんて呼んだ?
それに加えて……なんだ、命のストックとかまた新しい概念がでてきた。
というか、それ以前にさくらが以前までの雰囲気と全く違う。
如月大我に盲目で昼休み中ずっと惚気ているような、あんな恋する乙女真っただ中だった彼女の面影が見受けられない。
例えるなら──橋の下での青島だ。
理由はわからないが殺気が存在している。
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