第17話

 



 新学年に上がってひと月と少し、まだ距離や蟠りがあるクラスメイト同士の仲を深めるためのイベントとして用意されたクラス対抗の球技大会の内容はドッジボールだった。


 当然のごとく男女混合なため、張り切り屋さんな男子たちはいつにも増して士気が高い。

 純粋に競技が楽しみなエンジョイ勢、恋人や気になる女子に活躍している場面を見せつけたい運動部や陽キャラ、ポーカーフェイスで平静を保っているものの『実はアイツすごいやつなんじゃね……?』と周囲に驚かれるような活躍ができたらいいなと密かに考えている向上心が高めな陰の者。


 形は違えどみな少なからずこの球技大会を楽しみにしていることに変わりはない。それは普段の退屈な勉強は一旦忘れて、学校にいながらも一日中遊びのような感覚でいられる日だからなのかもしれない。


 だが、光があれば闇もあり。

 このイベントを楽しむ余裕のある周囲と違い、俺の心は暗く落ち込んでいた。

 クラスが変わった最序盤。

 一年に一度しかない行事。

 何も起きないわけがない。

 天宮は俺のここから先数か月の高校生活をゲームに例えていた。それはゲームで例えるほうが都合がよいレベルでこの先の日常は非日常に満ちているということの裏返しだ。

 この世界はゲームではないが、ゲームのような存在が実際に目の前にあるのは疑いようのない事実でもある。


 超常の魔術やら、未来からの来訪者やら、身に覚えのない理由で自分を恋人のように慕う少女たちなど、そんな異界の常識を携えたワケわからん集団、とドッタンバッタンな日常を送る未来が確定しているのなら、こんな特別な日に何も起きないはずがない。

 ゆえに、憂鬱なのだ。

 先の見えない非日常や、無軌道な少女たちに対しての不安でため息が漏れ出る。

 

「じゃ、AチームとBチームに分かれるぞー」


 生徒たちの喧騒でお祭り状態の体育館の端っこで、クラスのみんなが二手に分かれる。

 ドッジボールで三十人はさすがに多すぎるため、すべてのクラスで二チーム作ってリーグ戦でバトルする感じらしい。試合数がめちゃくちゃ多い。


「──えっ」


 俺はAチーム。


「……青島」

「一緒だね」


 なんの因果か、青島も同じチームであった。

 体操着のジャージのサイズが若干大きめなせいか、袖が少し余りがちだ。

 そんな当たり前に存在する女子高生っぽいかわいらしさすらも、俺にはどこか不気味に映ってしまう。


「…………っ」


 思わず息を呑むと、それに気がついた彼女がジト目でこちらを見つめてきた。こわい。


「……なに、如月くん」

「えっ、いや。……これは学校行事だからセーフ……だよな? まさか、またナイフとか出したりは……」


 生徒たちがそれぞれ期待を胸に試合場所へ移動する中、恐る恐る問うてみる。

 すると、意外にも青島は困ったように顔をそらしてしまった。


「……殺すとか、本気にしないで」

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