第15話
こいつとの接し方はこの数日間で把握した。
ズバリ、適当。
答えは適当だ。
天宮千鶴という少女の接し方は適当でいいのだ。
協力者である彼女にまで気を配ってたら俺のメンタルが先にやられるので、これが正しい。適当いちばん。
「なぁ……天宮。なんでこれから先のことを全部教えてくれないんだ?」
ベンチで横たわったまま、目の前のブランコに腰かけてる彼女に問いただす。
……やば、パンツみえそう。
目とじよ。
「順序がバグるから、って言いませんでしたか」
「その言い方じゃわかんねぇよ。もっとプレイヤーに優しい説明してくれ。お前は四周目でも、俺はこれが初周なの」
「まぁ……たしかにそうですね。もっと詳しく語るべきだったか」
こほん、と咳払い一つ。
咳かわいい。目を閉じてる分こいつのきれいな声音がよく聞こえるわ。
……だめだ、疲れてるな俺。
「先輩。一周目の先輩は”未来”を知っている状態だったと思いますか?」
「普通に考えれば……知るわけないな」
「その通りです。共通ルートっていうのは別に迫りくるイベントに対してうまく立ち回ろうとして出来上がった道じゃなくて、先輩が普通に学園生活をおくりながら自分の意志で行動した結果として構築されたルートなんですよ」
例えば、と続ける天宮。
「あした高校の曲がり角で先輩とヒナミさんがぶつかっちゃうとします。それを知った先輩はぶつからないよう、必ず曲がり角で一度止まるようになりますよね」
「そりゃそうだろ。ぶつかったら痛いし」
「ダメなんですよ、それが」
「……痛い目に逢えってことか?」
「広義の意味ではそうなるかな。例え話の続きですけど、先輩とぶつかったヒナミさんがペンを落としちゃって、あなたがそれを踏んづけて壊した。で、先輩はそれを弁償するためにヒナミさんを文房具店に連れていきます。──はい、デートイベント発生。逆に避ければこれは起きません」
言わんとしていることは理解できた。
つまり予定通りに動けって話だろう。
「予定通りに動けって話じゃないですよ?」
ちがったらしい。じゃあなんだ。
「未来を知っているがゆえに不幸を避けたりとか、逆に無理やり帳尻を合わせようとすると、否が応でも変なルートに突入しちゃうんですよ。まったく知らない未来に変貌してしまったら、私もナビゲートが厳しくなる可能性があります」
「じゃあどうすればいいんだよ……」
「なるべく普段通りに生活してください。先輩が”ああしたい”とか”こうするべきだ”って自分で考えて選んだ道こそが正解になりますから」
「……もし、それでお前の言うところの変な方向に曲がったら?」
起き上がって目を開けるといつの間にか天宮は目の前にいた。
そしてやはりというか、彼女の表情は余裕綽々といった雰囲気で、俺のことを見おろしている。
「ま、そのときはそのときですね。現状ベストな選択が先輩に任せることなんで、それ以上の具体的な案はなんとも」
「大雑把だな……そんなことでいいのかよ。俺たち、一応あの二人の人格を崩壊させないために動いてるんじゃないのか? 未来の二人については早く対処したほうがいいんじゃ……」
「目下研究中なので、そこを急かされても困りますね。幸い赤嶺先輩と青島先輩は無意識下でうまく抵抗できてるみたいですし、精神の綻びもまだ予兆すらありませんから、猶予はそれなりにあるはずですよ。あんまり身構えすぎても肩がこるだけですから、まったりいきましょう。まったり」
「まったりねぇ……」
鷹揚な天宮の態度に少々の不安を抱きつつも、急かされなかったことに関しては素直に嬉しかった。
俺のペースでやっていいのなら、その通りまったりやらせてもらおうじゃないか、とも思えてしまう。
それからひとつ、気になることがあった。
「……なぁ、天宮。参考程度に聞いておくけど、今日ここで俺と天宮が会話してるのは正しい歴史の流れなのか?」
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