第14話
正体不明の謎の少女こと天宮千鶴から諸々の説明を受けた放課後から数日が経過した。
その間大した進歩はなかったものの、俺が日常生活においてやるべきルーティンはだいたい把握することができた気がする。
先週から今週にかけてまでの日数で計算した場合、登校前に青島が自宅前まで迎えに来るのは三日に一度程度だ。
起床時に自室の二階から窓の外を確認するのを忘れなければ、青島の人形みたいな無表情づらを朝っぱらから見る羽目になっても変に驚くことはなくなる。あれは特に心臓に悪いから念入りに確認すべき項目だろう。
次によくあるイベントが赤嶺との昼休みで、これは青島よりも間隔が短くほぼ二日に一回。運が悪いと連日になることもあるのが特に悩みどころか。
赤嶺が個別ルートの赤嶺──通称”さくら”になっている場合は、決まって四限目終了直後に教室の前で待機している。
俺のクラスの授業が終わったのを見計らい、チャイムとともに開放された教室の扉の隙間からパチンとかわいいウィンクをしたらそれが合図だ。
さくらがあの空き教室へ向かった五分後に俺は席を立ち、近々手品部の部室にされてしまうであろうあの場所で落ち合うまでが一連の流れである。
……とりあえずあの二人に関してはそれくらいだろうか。
天宮曰く個別ルートの彼女たちは一人で生きていた共通ルートと違い、如月大我という心の支えを獲得したことで逆に精神が少しばかり不安定になっているらしく、変に刺激するのはNGということになっている。
彼女たちが気がつかないうちにこっそり成仏させる──そういった算段だ。
なの、だが。
日を追うごとに冷静さが増していき、客観的に自分を見られるようになったとき、俺はなんでこんな理不尽にさらされているのかとごくごく真っ当なはずの憤りを覚えてしまっていた。
別に昔馴染みでもなければ新しくできた友達でもなく、それこそただの同級生程度の間柄でしかない少女ふたりの精神を、なにゆえ俺が守らなきゃならんのだ。
赤嶺と青島は誰もが認める美少女だ、という事実はわかる。そこはすでに受け入れている。
優れた容姿と誰に対しても物怖じせず対等に接する中身の良さも相まって、読者モデル兼SNS上での有名人でもある赤嶺だけでなく、ほぼすべての人間に対して距離感が近い青島もまた、高校の生徒たちからの支持は熱い。
何が言いたいかというと、つまり彼女たちが『助けて』と希えば、手を差し伸べるヒトなど山ほど存在するということだ。
これは男女問わない。
実際に身近に存在する有名人と縁を繋げたい層や、普段から青島の艶やかな髪の毛を結ったりしてかわいがっている女子、またあまりにも近すぎる距離感の青いほうが『こいつ俺のこと好きなんじゃね?』と勘違いさせまくっている男子たちに加え、彼女たち二人に対して純粋に憧れや好意を抱いている生徒などなど、例を挙げればキリがないほどだ。
なのに、なんで俺が。
有名人であったり多数から好意を寄せられているような存在と、とても大変にしぶしぶ不本意ながらつながりを持ったわけだが、残念ながら他の生徒たちに対しての優越感など皆無に等しい。
事あるごとに『やれやれ』とぶつくさ文句を口にしながらヒロインたちとの物語を歩む漫画やライトノベルの主人公たちの気持ちが、ほんの少しだけだが理解できた。
一度しかない青春真っ盛りな高校生活だぞ。
普通なら自分の好きな人──相性のいい人間とだけ過ごして思い出を築いていくはずだろう。
なにが悲しくて転校したばかりの自分が一番大変な時期に他人の重い事情を背負って手を差し伸べなければいけないんだ。
一人友達ができただけでウキウキしながら一緒に帰ろうとしちゃうくらいコミュニケーション能力最弱なの。
まじ勘弁。
スズね……スズさんはなんともなくて本当に助かった。
いまのところ、彼女が唯一の心の拠り所だ。
またあんまん買って帰ろうかな。
「……だりぃ」
とある公園のベンチに横たわってそう呟く。
世界が真横になっとるわ。
「おつかれですね、先輩」
「そりゃまあ精神的にな」
学校が終わった帰り道。
めずらしく赤青ふたりが人格の主導権を未来のさくらとヒナミに渡しておらず、普段通り過ごしていため俺も巻き込まれることなく一人で帰ることができた放課後だった。ちなみに中嶋は部活。
平和な放課後に喜んだのもつかの間、こうして自分を俯瞰した結果、俺自身の最悪な現状を自覚して、これから先のことが不安になりナイーブ真っただ中、という経緯である。
天宮がいる理由はしらん。
「おいストーカー、なんでいる」
「ブランコにのってる私の目の前でベンチに倒れこんだのは先輩のほうですよ。スカートでも覗きに来ました?」
「えっ……ごめん」
「やーいストーカー」
「ゆるして……」
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