第13話




 天宮の話から得た情報は絶大だったが、やはり彼女が胡散臭く感じる存在であるという認識が変わることはなかった。

 いろいろ教えてもらったが彼女の素性も含めて具体的な内容があまりに少なかった。

 全てゲームに近づけた比喩表現で語られ、大枠は理解できたが詳しい中身が未だ不明のままだ。

 要点だけをまとめてわかりやすく解説してくれた、と言われればそうなのだが、やはりもう少し情報がほしかった。

 今日のところは『詰め込みすぎてもよくないですから明日にしましょう』とのことで天宮先生による攻略手順の授業は終わりを迎えたが、次回以降気になるところはどんどん質問していこう。


「で、結局お前は何者なんだよ。そこ一回も触れなかったぞ」

「触れましたよ? 手品部創設メンバーです」

「そういうことじゃなくてだな……」


 飄々としていて掴みどころがない──それが天宮千鶴という少女に抱いた率直な印象だ。

 味方というよりただの協力者といった雰囲気が払拭できないため、彼女と接するときはあまり油断しないように気をつけるべきかもしれない。


「ほんと、ただのサブキャラですから。様子のおかしい手品部の先輩たちはバグみたいなもので、正規の手段でタイムリープしてるのが私……とか、それくらいしか言うことないんですよ。もっと知りたいなら明日以降しっかり教えてあげますって」

「……それはわかった。じゃあ俺はいまどこに連れていかれてるんだ?」


 話が終了したあと、俺は天宮に連れられて本校舎の方へ戻っていた。

 彼女についていってはいるものの、目的地は教えられてない。


「音楽室へ向かおうかと。魔術師の戦いに巻き込まれた時のための防衛手段が隠してあるんです」

「防衛手段……? ──あっ、ちょ、ちょっと待って」


 話の途中ではあったが、階段に差し掛かったあたりでつい彼女を制止した。

 先程までは天宮の後ろに続く形で進んでいたものの、階段で女子の後ろを進むのはいささか憚られるものがある。

 ……気がする。

 いや、まて。

 もしかしてこういうのって意識するほうがキモいのか?

 でも、もう呼び止めてしまったし……ダメだ、腹を括ろう。


「音楽室の場所は転校初日にだいたい把握してあるから、俺が先に進むよ」

「……? 別に最後まで案内しますけど──あぁ、なるほど。ふふっ」


 口元を緩ませた天宮はジト目で俺を笑ってきた。

 なんだよ、配慮だぞ配慮。わらうとこちがう。


「見えました?」

「何を言ってるのか判断しかねるな」

「ふーん……別に覗かれても文句は言わないつもりだったんですけどね。むっつりさん?」

「ぐっ……タチの悪い冗談はそこら辺にしとけよ後輩。いいか、別にセクハラだと思われても構わないから言うが、おまえこそスカート短すぎな。きちんと校則守れよ」


 俺ばかりが悪いわけじゃないだろう。校則で指定されたスカートの丈であればたとえ下から覗こうとしても覗けないのだ。

 オシャレしたいのはわかるが短めの長さにしているコイツにも責任の一端はあると思う。


「えっ? だってこれは先輩が──」


 何かを言いかけた天宮は、あわや失言しかけた自分に気づいたのか焦って真横を向き俺から視線を外した。

 俺がなんなんだ。

 気になることばかり口にするのよくないぞ! マウントとるな!


「……なんでもないです」

「待て、その反応はなんでもあるだろ。俺がなんだ」

「知らなくていいです。……はぁ、はいはいわかりました。先輩がそこまで言うなら長くしますよ、丈。よいしょ……」

「ばっ──!?」


 おいおいおい前あけて折ってあるスカートいじり始めたぞこの女羞恥心てもんがねぇのか待て目の前でやるのやめろ!!


「アホおまえっ男子の前でスカートの長さ調節してんじゃねーよ!!!」

「えぇ……生娘みたいな反応しますね先輩……」

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