第12話
突然押しかけてきて昼食を共にしようとしてくる赤嶺。
ほぼ毎回校門前で待ち構えて、かたくなに俺と一緒に帰ろうとする青島。
スズさんはいまのところ何もないようだし、把握するべき情報はあの二人のことだ。
教えてもいない好物を知られていたり、近づいたら殺すとか宣言してきた女と一緒に帰るとかいう、不安と恐怖が延々と続く綱渡りをいつまでもやれるほど俺の精神は強靭ではない。
はやく、最も知りたかった答えなのだ。
「順を追って説明します」
赤、青、黄色の指人形を手に取る天宮。
それらをA、B、Cと書かれた、共通ルートの先で枝分かれしている部分にそれぞれ一体ずつ配置した。
「こういうゲームをやったことがあるなら、個別ルートって言葉がどういう意味なのかもわかりますよね」
「あぁ。特定のキャラ一人と仲を深めたり、そいつの過去や問題を解決していくルート……だろ?」
「それで合ってます。先輩はしっかりこのお三方とそれぞれイチャコラして、命はってイベントを乗り越えて──」
茶化すような軽い物言いが少々気になるが、一応最後まで聞かなければ。
「……で、最後はいつもバッドエンドでした」
それまでしっかりと俺の目を見て話していた天宮が、珍しく目を伏せてそう言った。
大きな驚きはない。
彼女がゲームに例えて話を進めてくれていたおかげだろうか。
個別ルートに進んだのなら、その先はハッピーかバッドの二択だ。その二つしかない答えの片方がきたところで、大きく動揺することはない。
……少しだけ心臓の鼓動は速まっているが、こんなのは誤差だ。
バッドエンドを迎えたから、何かがあった。
故にいまの俺の状況が生まれている。
「バッドエンドの詳しい内容はルートによって異なるので追々話すとして。知りたいのは現状の話ですものね」
すると天宮は赤、青、黄色の指人形をひとまとめにして、俺のいる共通ルートの円の中へそれを雑にぶち込んだ。
「つまりこういうことです」
「……え?」
「個別ルートからいらっしゃったみたいです。彼女たちの中身だけ」
ちょっと何を言っているのかわからない。
「方法はあとで説明しますけど、この世界におけるルートのやり直しは”世界そのもの”の時間を逆行させるっていう方法なんです。未来をなかったことにしてやり直す、って感じですね」
天宮は淡々と説明しながら、個別ルートのABCに赤色のマーカーでバツを書き込む。
「ですが、それって結構な大技なので。世界の強度が落ちて時空が歪むと大変なことになるんで、時間を戻すのは最大でも二回までなんですよ」
で、あれば。
いまこの俺がいる時間は何周目なのか。
それを表情から察した天宮は苦笑の表情のままぽつりと呟いた。
「──いま、四周目です」
彼女のその言葉で、俺は現状に対してある程度の予想がついてしまった。
そして、天宮もまたそれを理解したようだった。
なぜなら俺は小さくため息を吐いて。
あの石像になった考える人よろしく俯いて顎に手を添え、沈鬱な雰囲気を醸し出してしまったから。
天宮曰く、二回までの制限を破って三回。
時空の歪みがどうたらと語った後にこれだ。
赤嶺と青島の異常については、なんとなく予想がついてしまっている。
「そうですねぇ……簡単に言えば怨念とか魂みたいなものかもしれません。詳しいことは私にも分からないんです。ただ、無かったことにされたはずの彼女たちがなぜか今この時間軸を漂っていて、どういうタイミングなのか未判明ですが今の彼女たちに乗り移って先輩とラブコメしようとしている」
指人形と地図をしまいながら、ため息混じりに綴る。
「先輩が迷惑を被っているのもそうなんですけど、なによりこの時間軸のさくら先輩とヒナミさんがかなりの被害者なんですよ。……もし、あのまま何回も乗り移られてたら脳が耐えきれなくて人格崩壊を引き起こす可能性があります。……つまりですね」
個別ルートからいらっしゃったヒロインたち(正体不明)をなんとか対処して、この時間に生きる彼女たちを救わなければならない──と。
なんと単純明快な答えだろうか。
そしてなんという無理難題を押し付けられているのだろうか。
転校したての新生活、自分のことで手一杯だというのに、俺は気がつけば人の命を預かる立場になってしまっていた。
………………キレそう。
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