男子高校生の恋バナ?

えとはん

第1話

「なん・・・だと・・・!」



とある放課後の教室、俺は前の奴に向かって驚きのあまりうめいた。


「何驚いてんだよ、たかがキスしたぐらいで」


冗談か!?冗談で言ってんのかこいつは?キスくらいだと!

こいつは頭のネジがぶっ飛んじまったのか?


同じクラスの高校からの付き合いで、いま目の前にいる奴、山田は俺と同じくコミュ力が低く、知らない女の子に話しかけることなんてできないはず、なのだが。


俺はこれほどキスを魚のキスと思いたいと思った時はないだろう。

ふつう逆だもんね


そんな俺の心境をすべて無視して、山田はその時のエピソードを気持ちよさそうに語り始める。


「確かあれはサイクリングをしていた時のことだった」


何かっこつけて話してんだ!とは思ったがそれより話を聞きたいと思い踏みとどまる。


「近くで女の子の悲鳴が聞こえてな、俺はその子に駆け寄ったんだ」


おいおいこいつってそんなキャラだったっけか?

俺らと同じ話しかけられたらめちゃくちゃ話すけど、話しかける勇気はない組ではなかったのか。


「行ってみるとそこには凶暴な奴らがいて、俺はそいつらを追い払ったんだ」


どこの恋愛ドラマの主人公だこいつは。話の中の山田と俺の知っている山田は別人なんじゃないのか。二人でナンパしようと思ってわざわざ3000円払って都会に行ったのに結局話しかけることなんかできず、そのまま帰ったあの時の山田はどこに行ったんだ!!


「あの時は結局何もなかったんだが、ある日給食を食べようと席に座ったとき、びっくりした...その時の女の子が斜め前にいたんだからな」


いいないいなー!こんな運命的な出会いがあってー。こんな出会いあるわけねーだろうが!ドラマの第一話じゃねーか。


俺は話をせかすように首を縦に振り続ける。


「これから先は早かった。これがきっかけで話す機会が増え、すぐに仲良くなった...そして、ある日の帰りに、彼女は僕に向かって...キスをした」


「嘘だろ!嘘だよな?お願いだから嘘だって言ってくれよ...」


俺はついに少し笑うようにつぶやいた。


「嘘じゃねーよ。あの時のことはよく覚えてる。帰り際に彼女は俺にキスをした。ほっぺだったけどな」


マジか。俺の隣にいるやつはこんな恋愛上手だったのか?後でこいつに仲良くなる方法教えてもらおう。


正直今の俺はキスをしたのがほっぺだろうが唇だろうがどうでもよかった。山田にこんな恋愛経験があること自体に、俺は驚いてしまっている。そして山田は最後に余韻を残さんとこうつぶやいた。


「あの時の彼女はかわいかった。キスをした後、まっすぐ走っていったかと思いきや、もう一度だけ振り返り、にっこりと笑ってそのまま...」


ああ、まるでドラマの最終回みたいだ、とてもすがすがしい。








「そのまま、幼稚園バスに乗っていったんだ」








ん、今こいつ何て言った。幼稚園バス?


その時俺はある一つの現実的な答えにたどり着いた。


「お、お前、この話、いつの時の話だ?」


「あれは確か、5歳の時の話だったかな」


5歳!!!!


「え、でもサイクリングって?」


「ああ、あの時はよくキックボードに乗ったもんだ」


キックボードに乗ることをサイクリングって呼ばないだろ~!

あれ、幼稚園ってことはまさか...


「おい、まさかその彼女に出会ったところって」


「ん、そりゃああの時幼稚園児だったからな。幼稚園のグラウンドだ。あそこはよく芋虫が出るんだよ~」


おー!こいつマジか!?


「ふざけるんじゃねーよ!。まさか凶暴な奴らって芋虫のことじゃねーよな?あれか、ただ幼稚園のグラウンドに芋虫が出てきたところを追っ払っただけの話じゃねーだろうな?」


「あ、ばれた?」


こいつー!


俺は幼稚園の時に仲良くなった女の子にキスしてもらった話を高校生になって自慢げに話す目の前の奴をほっといて家に帰る。


そーだよな!中学の頃の話かと思ってたけど、いくら昔だからって中学生と高校生じゃ大して性格なんて変わんないもんなー!


俺は少し安心したような心情で校門を出る。


だが、俺は帰り道を歩く中、不覚にもこう思ってしまった。




幼稚園でも羨ましいと思ってしまった俺はもう末期なのだろうか?





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