間章代償と失いと暗黒世界
引き換えと混乱
あの日、私は止められ無かった。
目の前で青白い光が拡散して弾けた、その光を浴びたユグドラシルは回復して癒した。
魔王となったルークの父アルトは、ゆっくり倒れたルークを受け止めた。
「馬鹿野郎! なんでこんなことしやがった! なんで、命に関わる事を――――」
す
ルークはピクリとも動かない、安らかに眠るかの様にその瞳を閉じたままだ。
「アルト、貴様大丈夫なのか?」
「ん? あぁ、魔王の魂が吹き飛んでしまった。まさか、息子に助けられるなんてな」
「だが、抜け切れてないな。あくまでも一時的か」
「それを言っちまったらしめぇよ。まぁ、バカ親父だからよ。どうしていいかわかんぬぇ」
ロキとの会話を聞いていて私は生唾を飲む、あの"メメントモリ"でさえ消えない。
魔王の魂は不滅なのかしら? "永遠"なんてこの地を滑り転生を繰り返すだけ。
いや人と言う"器"に入り込むだけ――――ね。
私に気づいたアルト、ゆっくりと歩み寄り目の前で立ち止まって話す。
「お? フィリスちゃんじゃないか! 大きくなって。 あのバカ息子に振り回されてるって感じだな?」
「いえ、振り回されてるのは何時もなんだけど。振り回した分だけ絆があるわ」
「ほぅ、そいつを聞いて安心したぜ。あいつは小さい頃から、人を弄ってはよーく誰かを泣かせる。そんなひねくれ備わってたけど、そいつが結んだ仲間が今があるのか」
アルトは私の背後にいる、フェイとソラに目を向けた。
「こりゃ、アルト様の息子。女の子を沢山遊んで一人で決められないハーレム主人公線入っちまったか」
「「へ?」」
「アルトさん、違いますから! そんな感じじゃないよ。 共に歩む仲間だよ」
「そいつは残念だなぁ、まぁアイツも年頃だからしゃーないか。 ガハハ」
と和気あいあいで会話してると、ロキがルークを抱えて来てこういった。
「アルト、貴様の息子はかなりやばい」
「あん? 死んじまうってか?!」
「あぁ、精神が別の場所に切り離されてる。いや、魂がルークの本体から離脱してる」
「どうすりゃいい?!」
「落ち着けアルト」
ロキの胸ぐらを掴みあげて揺すっていた。
それはそうだ、親だから気が気でなくなるだろう。ロキはアルト腕を掴み、ゆっくりとこういった。
「だが、場所はわかる。ルークの魂はこの世界から消された場所にいる」
「なんだと? 消された世界だと?」
その次の瞬間、乾いた鉄音が空回った。
向けられた銃口、発砲した先は――――ベルゼックだ。銃弾はロキの右胸を貫いていており、ゆっくりと地に倒れた。
「ロキ、我々は貴様を許したつもりもない。神を殺せば我々が天下だ」
辺りに伏兵がかなりの数がいることを私は感じ取れた、ここでバハムートを呼んでも誰かが撃たれてしまう。
誰か割り込んでくれたら、その隙で逃げられるのに――――。
ベルゼックのライフルの銃口は、確実に殺す為に向けられている。
アルトが一瞬でルークが手にしていた両手剣の所に歩いた。
「動くな! 英雄もちに落ちたもんだ。魔王なんぞになりおって」
「魔王なんぞにか? いや、違うな――――」
両手剣を引き抜いたアルト、真っ直ぐ眺めて微かに笑みを浮かべて言った。
「仲間の為に引き換える、それは超越する想いだ」
アルトは、両手剣を思いっきり投げ飛ばした。ベルゼックの頬をかすり背後の壁に的中する。
「どこに向かってなげ―――」
壁は崩れ落ちる、口を開いたかのような坑道のような入口が現れる。
砂煙が舞い上がる最中で、そこをゆっくりと歩く人影が近づいてくる。
「だ、誰だ貴様!? まぁいい、撃て!!」
隠れていた伏兵の銃口は、一瞬で坑道へと向けられ。乾いた鉄音が鳴り響く。
数分間続き、空薬莢が地に転がり硝煙の香りが鼻腔を貫く。
「ふん、所詮は人――――」
立ち止まった人影は、倒れることなく数分立ち尽くして再び歩み始めた。
「ば、馬鹿な!! そんなはずは――――」
砂煙が消えると、だるそうな顔を浮かべる赤い瞳の少年が坑道から出てくる。空中に浮かぶ無数の弾丸が
この時、咄嗟に私はバハムートを呼ぶアルカナを吹いた。
「な、なんだ!? 今度は――――」
空から影が伸びて飛龍の姿が覆いかぶさる。バハムートは降下して着地する。
「り、龍だと!?」
バハムートの背中にルークとロキ、フェイとソラを乗せてた。私も乗っかりアルトの方を向いた。
「お嬢さんよ、まさか飛龍使いか?」
「えぇ、私は龍が好きなのよ」
「なるほどな、あの日見た龍はお前か?」
「ふん、我は忘れた。貴様なんぞ助けた覚えは無い」
「ツンってしてんの変わらずだな。 お嬢さん、後は俺達に任せて逃げろ」
「――――わかったわ」
私はアルトを置いてバハムート共に高い空に飛び立った。
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