1話 朝

「ハッ......もう、早く起きちゃったよ......」


 目覚まし時計を見てみると、時刻は6時55分。タイマーをセットしてある時間は、7時。あと5分寝たかったなぁと思うが、不思議と眠気は少ない。いつもは起きるのも苦痛で、ベットから離れたくない! という気持ちと戦っているうちに気づいたらもう一寝入り、なんてこともあるのに今日はスっと離れることが出来た。この原因を探ると心臓がバクバクなってうるさそうなのでなるべく考えないようにしながら朝食の席に向かう。前まで寝ぼけながらゆっくり食べていた朝ごはん。早く食えとか言われながらやっていた行事。それも早々と完食。いつもとは真逆の姿に母もびっくりの様子だ。


「透。どうしたの今日。そんなにきっちりしちゃって。昨日悪いものでも食べさせたっけ? それとも頭のネジ忘れてきた? お母さん、探してこよっか」


 おい、あんた俺の親だろ。そんなこと言うなよ。こころの中に留めろよ。いくらなんでも傷つくぞ......

 

 と、突っ込みつつも今日の俺はどこかおかしいことは自分が一番気づいている。着替えと身支度も驚くほど早く終わってしまい、家に出る予定の時刻を待つ。リビングの時計を見ると10分以上も余っていた。この待ち時間がそわそわする。最初は、まじめに動けば俺もできるやつなんだなぁとか思いながら自分に浸っていたが徐々に考えることも無くなり、何しようかやることねぇ、とかしか考えなくなる。無駄に何度も忘れ物がないかとか確認していたらついに時間になった。

 

 ドキドキしながら玄関を開ける。目の前には今朝のおかしな行動の原因がお出迎えだ。


「おはよっ! とおる!」


 いつもと変わらぬ、明るい笑顔。嬉しさを隠すようにいつも通りを装う。


「おはよう、桜。」

「あら、今日は眠くなさそうね。珍しい。あ、もしかして! わたしとの登校がそんなに楽しみだった?うれしいっ!」


 図星。グサッ。


「いや......そんなことは......」

「相変わらず図星だと表情に出やすいね。まぁ、そこがいいんだけど!おでこに嬉しいって書いてあるもん」

「そ、そんなこと言うなよ! そんなの書いてないし! 恥ずかしい!」


 おでこを慌てて拭いて、書いてあるらしいものの存在を消そうとする。


「照れるとおるもかわいい! あ、そろそろ行かないと遅れちゃうよ? はやくぅ」


 と言いながら2人で歩き出す。隣にいる桜を見ながら、付き合ったんだし、そのうち手とか繋げたらな、まだ無理だけど。とか脳内妄想を広げようとしたその時、隙を突くように桜が腕を絡ませてくる。思わずぎょっとして動けなくなる。


「い、いきなりどーした! びっくりするだろ!」

「いいじゃーん。いままでとおるに甘えたかったのにできなかったんだから。くっつかせてよ。」


と言いながら更に半身をくっつけてくる。女子特有の甘い匂いがして、ドキドキが増しすぎて胸がはち切れそう。


「は、恥ずかしいわ! ね、もうちょっとぉ、離れない? あと......数センチ」

「またまたぁ、そんなこと言って〜。嬉しいんでしょ。本心は! それに今は2人きりなんだし、いいじゃん!」


 想像していた段階なんてぶち壊された。意外すぎる彼女の一面に思考が止まりそうになる。


 あれ? こんなに甘えん坊な性格だっけ? 桜といえばクラスのしっかり者! を体現した存在だったのに。でも、今まで見たこともないくらいとろけた顔でくっついている。めちゃめちゃかわいい。ご本人も幸せそうな顔だ。このままずっといたいなぁとか思いながら、学校に向かうこと10分。そろそろ同じ学校の生徒が増えてきた。学校内でアイドル的存在の桜が知らん男と歩いていれば目につくだろう。人の目(主に男子)がグサグサ刺さる。豆腐メンタルな俺には痛すぎるダメージ。


「なぁ、そろそろはなれ......ないか? 人の目もきになってきt」

「もう少しくっつかせてぇ。足りないの! とおるが!」


 えぇ......まじか......まだこのままか......


 周りが全く見えていない様子だ。うれしいにはうれしい。だが、それ以上の何かが来てる気がする。もう、しょうがない。やれやれといった表情で歩き進める。その間にも、精神ダメージは入り続けた。


 HPもなくなりかけていた頃、やっと学校が見えてきた。心の中でほっとしつつ彼女を現実世界へ引き戻そうとする。


「そろそろ学校だぞ。」

「え、もう着いたの! 短かったなぁ。まだ足りないのに。あ......」


 まわりを見だしてからようやく、自らがおかれている状況に気づいたようだ。恥ずかしさで顔が真っ赤になるのが見える。なんか、湯気出てそう。


「やっ、わたし。なんてことを......ありがとう、とおる! じ、じ、じゃあまたね!」


 といいながら走り去ってしまった。それでもなお、俺に向かう視線と攻撃は残り続ける。


 ラブラブな登校の後は色んな意味で大変なことになりそうな予感がして、教室に行くのが過去一怖くなった。

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片思いし続けていた幼馴染に告白してみると...... あいくま @yuuki_zekken

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