タツは、思い出す。メリーなクリスマスのサンタとの思い出を

 深夜に子供の枕元にそっと置いた。

 売切れまくりの最新のゲーム機だ。

 

「幾つまで俺はサンタさんをやるんだろうな…」


 先日、朝から並んで買ってきたヒロが言う。

 もしかしたら物を売るレベルではない混雑だったかも知れないが、頑張ったようだ。

 しかし、最新…のゲーム機か…未だに何世代前か分からないスマホを持たされている私だが、子供を出されると、これは流石に怒れない。


「きっとずっとだよ、ヒロ、ずっと…なぁ、ヒロ…ずっと…」


 ヒロが微妙な顔でこっちを見る。

 確かにギリギリまでヒロサンタにゲーミングスマホを要求したが、却下された。

 というか、今のは良い話の前振りなのに違う意味でとった。


 まぁ、感慨深くなり…いや、昔を思い出すと敬語で喋るのを忘れる。


 私の子供時代の記憶なんてのは、殆どヒロや幼馴染みで埋まっている。

 いや、そりゃ親父も母ちゃんの記憶もあるけども…土日も仕事の親とのたまーにある休日、それと道場、そして学校が私の世界の全てだった。


―――


「ねぇタツ姉さん?明日のクリスマスはいかがお過ごしですか?」


「ん〜?まぁ色々あるよ…多分…」


 話しかけて来たのは幼馴染みのネトの妹、ネコだ。

 私は私立中学に入れられ、たまたま同じ中学になったネコに中学3年のクリスマス前、終業式の帰りに聞かれた。


 クリスマス…つまり家のイベント…中学の2年の時、親父が女と消えた。

 母ちゃんは親父が浮気してんのに死んだと勘違いして、母ちゃんと家が崩壊していた。

 

 別に虐待とかがあった訳じゃない。

 虐待しようにも私の方が強いから返り討ちするが…とにかく母ちゃんは親父に逃げられて『タツはいなくならないわよね?』を繰り返した。

 母ちゃんが分かりやすく壊れたが、どうにもならないので放置していた。

 

 まぁそもそも今までも家では無かったな…私の親は世間ズレしてたから、そんなイベントは無い、仕方無いと諦めていた。

 中学入る前から開かれていた道場のおっさん達が開くパーティという名の泥酔大会ぐらいがイベントだった。

 

「あの西園寺さんが学校でクリスマスパーティやるそうですよ?行きます?」


「いや、知らん人が一杯いる所とか行きたくないし…」


「タツ姉さんはそうですよね(笑)家に誰も居ないんだったらウチ来ます?お兄ちゃんもいますよ?」


「いや~…それはいいかな。何となく1人で過ごすよ…フラフラしたい」


「そうですか…ではメリークリスマス!」


「おう、じゃあな!ネトによろしく!」


 ネコと別れて、色々思い出しながら歩く。

 最後は小学校6年の時か?幼馴染み4人とネコ、ヒロの家でクリスマスパーティをやったな。ヒロは皆のリーダーだったから。

 楽しかったけど…中学は別になる事を言ってなかったから楽しかった分、辛かった。


 私はその後、親父が居なくなってちょっとグレたけども、それでも鍛えて、勉強をして、学校の往復、同じ事の繰り返し。

 ただし1人で、黙々と。そう、1人だった。


 何故なら中学に入り、唯一道場で接点のあったヒロがおかしくなった。

 道場には来るけど雰囲気がおかしい。

 たまに怪我してるのに道場にやってきて『アイツラゼッタイヤル』とか物騒な事を言っていてので、道場でも近寄りがたい雰囲気で浮いていた。

 道場の師範代、師範のおっさんやら客員師範代になんか言われては、母ちゃん以外には「ウルセーナ、オマエラモ、イツカヤルカラナ」としか言わない。

 ウチの母ちゃんにはだんまりするだけ…

 

 他の幼馴染み、アイカとネトに聞いたが2人共距離を取っているという。

 それに私だってそうだ、道場にいるのにヒロから話してくれないと怖くて…それにもし嫌われたら悲しすぎるから気軽に話しかけられなかった。


 その後、私が女って始めて知ったとか抜かして…ヤクザの事務所でヒロに助けられて…ヒロが土橋をボコボコにして…ヒロは3年間で何か変わっていった様な気がした。

 けど何も言わないから、何で変わったのか分からなかった。

 ただ、それを見ていただけ…


 いや、アイカの事を好きだと言った頃のヒロは、何処か別人の様だった。

 それが格好良くて、それがアイカに向いているのが悔しかった。


 高校か、高校に入っても私は何も変わらないんだろうか?

 ヒロは変わっていってるのにな。

 幼馴染み、特にヒロはいつも手を引っ張ってくれた。

 

 小学校を出てから弱くなり、女と気付いてから弱くなり、アイカの事が好きだと聞いてから…

 ヒロとの繋がりがどんどん弱くなっていっている気がした。

 その都度、自分か弱くなる気がした。


 川沿いの帰り道、川原に降りて夕日を見ていた。

 夕日を見ていたら、何だか不思議な気持ちになり泣いてしまった。


「ブブ、グフブブブ、グズ、ブブブ…」


 涙を堪らえようとしたら鼻水やヨダレが出て、変な音を出しながら泣いていた。

 涙で川が滲んで見えた時に幻聴がした。



――タツ、泣くぐらい辛い事って、どんな事だ?――



 何かヒロの気配がしたが、いるわけ無いので幻聴に語りかける。

 でも、なんて説明して良いか自分でも分からないので自分でも良く分からない事を言った。


「サンタさんが来ない、一人ぼっちだから」


――そうか、分かった…サンタさんに何を貰いたかったんだ?――


 とりあえず適当に言った。


「最新のゲーム機、全然売ってないやつ…」


――そ、そうか…分かった――



 その直後、ヒロの幻聴が聞こえなくなった。

 自分でも未練があるにも程があると思ったが、幻聴ぐらい良いよな。

 

 夕日が消える、月が出る。

 強制的に子供ではなくなった、太陽が落ちて、日が落ちるみたいに。


 自分でも分かってた。

 これから…そのまま中学、高校と同じ所で、見合い相手は土橋ではなくなったけど、いつか知らない誰かと結婚して…いや、それよりも何か道場ではない武術の集まりに入れられるのかも知れない。


 何にせよ楽しい事があるような気がしない。


 俯きながら帰ると母ちゃんからの書き置きがある。


【今日は仕事がヤバい、明日、ケーキ買いに行こう】


 別にケーキ食いたい訳じゃないんだけどな…と思いながらケーキと言ってアイス買ってくる母の姿が想像出来る。


「駄目だ、今日はさっさと寝よう…」


 適当に夕食を食べて寝よう、今日を終わらせよう。


 布団に入るが寝れない。

 考えないようにしようとしてもヒロの事を考える。

 小学生の時はいつも何かと戦っていた、いつも私と並んで戦えるようになりたいと言っていた。

 気付けば並ぶどころか前にいた。


 人の気持ちが良く分からない私は、周りと上手くいかなかった。

 だけどヒロは私を虐める奴に何故かキレて襲いかかったり、私にちょっかいかけてきた。 

 中2の時、ヤクザの事務所に連れてかれた時、久しぶりにあったヒロは成長していた。

 ちっちゃくて気が強いだけのヒロが…優しくなっていた。


 そして、その頃、ヒロは記憶を失っているけどなんかよくわからない大勢の喧嘩の中で言っていた。


『コイツに手を出すやつは俺が殺すッ!』


 暗殺者だっけ?子供の時に言ってたな。

 でもさ、そんな事を言われたら…そんな事…


 詳しくは言えないが、私の中でヒロが最大限になった。


 シュルシュルシュル…


 人には言えない事をしていた。涙を流すぐらいなら…

 全力のブリッジで、両手を高速で動かして…


「くあぁあっ!♥ヒロッ!♥ヒロッッ!!♥【からラララ~】


『最新のゲーム機なんか買える訳無いじゃんよ…馬鹿が…』


 ビクッ!


『久しぶりに来たけどマジで暗いなタツの部屋…別に枕元じゃなくて良いよな』


 私の全力ブリッジ(手の位置は秘密)の状態でヒロが侵入してきた!?何故に!?

 ヒロは私が凄まじい体勢だが、静止して息を殺しているせいで気付かず部屋の中まで侵入してきた…


『泣くほど辛いならよ、言えば良いんだよ、俺とタツの仲だろがよ…』


 何かをそっと枕元近くに置くヒロ…サンタさんだ…

 ヒロは見えていないかも知れないが私には見えていた。


『良く見えないな、ここらへんか?』


 チュ


 ヒロの顔が私の胸元に当たった…静止したまま気が狂いそうだった。

 

『お?なんか顔に当たった、まぁ良いか…じゃあな、タツ。メリークリスマス…』


 カラカラカラ〜ピシャン


 ヒロが出ていった…私は心の中で…叫んだ…


【ヒロッ!嫌だ!諦めたくない!ヒロが良い!ヒロが良い!嫌だ!…】

 

 フラレたんだから諦めるべきなのに。

 こっちを向いてないんだから私も別の方向を向けば良いのに…

 諦めきれない…諦めきれないんだよおおおおっ!



「んおふっ!♥ヒロオオオオオオオオオ!♥♥」


 勝手に続きを敢行して行くとこまでいった。

 私はこの時からだろうか?ひたすら待つ事を決めた。


 ただし…待つと言っても直ぐ側で…同じ高校に行き…例えアイカに向いていても…一瞬の隙も逃さない…絶対に…他所見をしたら最後だぞ…私が…



 次の日、2世代前のゲーム機(中古)が置かれていた。書き置きがある。


【サンタも無い袖は振れません、コレで我慢しろ】


 命令形のサンタさん…これじゃないよ…


 でもさ…サンタさんがくれたんだよ…私の欲しい物。


 諦めない心…諦めず願ってれば…いつかは…


――――――――――――――――――――――― 

 

 子供の枕元にプレゼントを置いてリビングで茶を飲む。

 昔の事を思い出し、私のヒロへの想いは最大になる。


「ヒロ…ヒロはオレに…常に欲しい物をくれた…」


「はぁ?だからアイポンの型落ちだって言ってるだろ?何で湯水の様に課金するんだよ、また請求書送られたらどうにもならんぞ?」


 人が最高の気分の時に最高に水を差すヒロ。

 この男は型落ちしか愛せないのか?型落ちが最高のプレゼントなのか?中古ってアンタ、日本の処女信仰は、どこへいった!?


 しかしまぁ、それでも愛しているからここにいる、2人でここにいるんだよ。


「いや、聞くんだヒロ。サンタさんは欲しい物をくれた…そう…諦めない心をな…」


「いや、だから諦めろよ。その課金グセ直さないとまた子供と老人用の機能しかないスマホに戻グワッ!?」


 いつもヒロはこうだ!話なんか聞きやしない!

 だから私は力付くで手に入れる!ヒロのアレをな!


「ちょ!?ちょちょ!待ってタツ!待てって!!止まれって!」



 待たない!♥聞かない!♥止まらない!♥

 例え眼鏡の気配がしようが複数人の気配がしようが関係ない!

 私はヒロの服を引き裂いて無理矢理…


 クリスマス…それは誕生日でも記念日でも無い。


 誰にでも訪れる冬の時間。

 キリストとか、関係ない。景色がいつもと変わり、ケーキ食って、たまに雪が降る。


 異世界のNTR耐久卿はどんなクリスマスだろうか?

 例え声は聞こえずとも伝えたい。


 Happy Marry Christmas 

 皆が幸せになりますように


 タツより




―――――――――――――――――――――


「ムニャムニャ…クリシュ…たいきょぉう…しあ…」


 コイツはいつもそうだ。見境ない。

 でも分かるんだよな…聞いてたから…


『目を離したほうが悪い、武術と一緒』


 つまりずっと見ているんだよな。

 ずっと見ていて、チャンスと思ったらどんな時でもやる。

 チャンスが来るまで諦めない。そういう所が俺は…


「親、友達、子供、やると決めたら関係無いわね、この女は…」


「皆でクリスマスパーティやってるのに急にヒロ兄さんの服を裂くんだもんだぁ…狂ってるだよ…」

 

「また子供が出来ると良いわねぇ」


「私は少し混ざったから良いわ」



 そう、俺はクリスマスパーティの最中、全員が見てる前で犯された。

 まるでこの男は私のだと言わんばかりに…


 毎年クリスマスはこんな感じだ、今も、昔も、そして…これからも…

 そんなクリスマスも幸せだと思う俺はどうかしているのだろうか?


 サンタがクリスマスにプレゼントを渡しに行ったら服を引き裂かれて犯されるなんて聞いた事ないが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

NTR耐久狂の宴〜子供の時から両想いの幼馴染がNTRれた時に俺は目覚めたが、もう一人の元ヤン幼馴染が必死に止めてくる…が、もう遅い(笑)【本編完結?済み】 クマとシオマネキ @akpkumasun

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ