第6話


「じゃあ、そろそろ行こうか。」

「そうだね。」

空は、すっかり濃紺に染まり、あたりが静かになっていた。私は、つい先ほどまで飲んでいた初めてのアルコールを飲み干し、「ごちそうさまでした」と呟いた。

時間の経過は、やけに早く感じた。「N」は自分のカバンを手に取ると、先に席を後にして、お会計の方に向かっていった。なんでも、今日の代金は全て彼持ちらしい。

「お待たせ。」

「ありがとう。」

「いやいや、そんなそんな。」

店の外でお礼を言うと、「N」は笑って手を横に振った。「今日が誕生日の友人に、払わせるなんてことはしないさ。それに、今日は元々私が誘ったからね。」

そういえばそうだったな、と、私は始めの連絡のことを思い出した。元々は「N」からの連絡が始まりで、私達は数年ぶりに会えたのだ。

「まぁ、君と僕の仲だ。定期的に会えたら嬉しいよ。」

最後、待ち合わせ場所だった駅に着くと、「N」は私の顔を見ずにそう言った。

「君は、私と会いたいのかい?」

気づいたら私は、そんな問いを彼に投げかけていた。「N」は後ろを振り向いた。

「もちろん。僕達は友達だからね。」

その途端、私の中で何かがパッと明るくなった気がした。

「・・・・そうだね、じゃあまた会おう。」

改札をくぐり、私は少し前を歩く「N」に言った。彼は、もう一度私の方を振り向き、「———。」と私の名前を呼んだ。

「———、またね。」

次の瞬間、彼はもう私の方を振り返らず、そのままゆったりとした足取りで、行ってしまった。


・・・


あれから時は経ち、私は大学3年生になった。

あの出来事があってから、私はまだ「N」に会っていない。彼は大学を辞め、また新たに自分の道を探す旅に出かけたようだった。

その彼の生き方は、今もなお、レールをゆっくり進む私にとって、新鮮そのものだ。

私は椅子に座りながら、小さく背伸びをした。目の前には、そんなレールを進み続けるためのレポート課題が存在している。

「・・・・色んな生き方があるよなぁ。」

私はそう呟くと、また私も終わりの見えない自分の旅に出かけた。




                 終わり

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旅路の「N」 キコリ @liberty_kikori

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