第4話


「やぁ久しぶり。はっぴーばーすでー、20歳の友人よ。」

誕生日当日、授業が終わり待ち合わせの駅に着くと、そこには数年ぶりの「N」の姿があった。彼は、真っ白な白Tに軽いダメージジーンズ、靴は某スポーツブランドのスニーカー、というラフな格好で、私は高校の時から、「N」が服装に全く興味がないことを知っていたので、なぜか彼がとてつもなくオシャレに見えた。

「久しぶり。元気にしてたかい?」

私は「N」にそう問いかけた。「N」はマスク越しにニヤリと笑った。

「まぁまぁだね。相変わらず世の流れに逆らうように過ごしてる。」

相変わらず、変な答えだった。

「そうか、ならよかったよ。」

「———は、大学生をしているんだよね?」

私は、誰かから久しぶりに自分の名前が呼ばれ、若干眉がぴくっと動いた。

「あぁ、そうだよ。「N」もそうじゃないのか?」

「そうだね。ただ、その生活も終わりに近い。」

「大学を辞めるのかい!」私の声が、若干裏返った。

「あぁ。周りの環境が合わないのさ。それに、夢も目標も何もないし、世の流れに逆らう方が、より面白い人生を送れる気がするのさ。」

「N」はさらっとそう言うと、「さぁ、ひとまず座って話そう。」と、カフェに向かって歩き出した。私も、前を歩き始めた彼の一歩後を追って歩き始めた。


予約してくれたカフェは、ヴィンテージで落ち着いた雰囲気だった。僕達は一番奥の席に通され、座るとすぐ店員がおしぼりとグラスを持ってきた。その場で冷たい水が注がれ、僕は乾いた喉を潤した。

そんな僕を、「N」はニヤニヤしながら見ていた。「どうかな?」

「凄くいい所だよ。」私は、グラスを置いて周囲に視線を移した。「ありがとう。」

「いやいや、久しぶりに会うというのなら、いい場所でお祝いしなくてはね。」

「N」はそう言い、僕と同じようにグラスを手に取った。

「そういえば、さっきの話の続きだけど」

「なんだい?」

「君は、大学を辞めたのかい? それとも、大学を辞めようと考えているのかい?」

この問いかけは、僕の中でハッキリさせておきたかった。ずっと進路も誕生日も分からない「N」のことを、少しでも知ることができると思った。

「実はもう、退学届けは書いてあるんだ。」

「それは、まだ提出していないのか?」

「あぁ。親の許可が下りなくてね。」

そう言った「N」の表情は、曇っていた。暗くなった、というより、どのように今後動くべきか分からない、というような、ある意味で困惑の表情だ。

「それでも、必ず僕は大学を辞める。」

「自分の意志を貫くのはいいことだと思うよ。」

私は、心からの本心を「N」に伝えた。「僕は君の味方だ。高校時代、一緒に過ごした時間からずっとそうだよ。」

「———、ありがとう。」

私は、また「N」から自分の名前を呼ばれ、内心ドキッとした。やはり、まだ久しぶりに呼ばれるのは慣れない。

「とにかく、今回は君の誕生日を祝おう。」

「分かった、私も祝われることにする。」

私の言葉に、また「N」はニヤニヤした。そして、私達は、この落ち着いたカフェにてささやかなパーティーを始めた。

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