第3話
「N」は、いい人間だった。ただし、単なるいい人間ではなく、変な人間でもあった。
例えば、「N」は自分の正体を明かさない人物だった。私は、よく彼と一緒に話したり帰ったりすることはあったが、彼の血液型、星座、誕生日など、彼に関する基礎情報を全く知らなかった。なんとなく気になり「N」に聞いたことはあったが、
「それは謎のままでいいだろう。別にそれが分かった所で、関係は変わらないよ。」
と、何度も謎のままにされて、私は彼について「同じクラスメイト」という情報以外、知ることもなかった。ただ、それに関してはいつか分かると思っていたし、私自身も無理に聞くことはしたくなかったので、聞かないでいた。そうしたら、気づけば私達は高校を卒業し、お互いの道へ進むことになっていた。
私は大学生になり、小中高の友人とはほとんど会わないでいた。元々交友関係は狭い方で、特に私も友達を作ろうとしてこなかったことが原因かもしれない。ただ、大学1年の時に一度、中高一緒だった友人が数名遊びに来たことはあったが、その時も特に何かすることもなく、私の家でダラダラと過ごし、そのまま夕方になり解散した流れだった。それきり、その友人とも連絡を取ってはいないし、他の友人とも会っていなかった。
そんな中、今回「N」からの連絡は、ある意味面白く、興味深く、嬉しかった。今になって突然の連絡が来たと思えば、急にお祝いをしたいと言い出すのは、相変わらず「N」が変な人だという証拠に充分なりえると思ったし、私もまた高校3年間(そして今もなお)「N」の友人として、その変な人間性を持つ「N」の誘いに乗ってしまったという訳だ。
私は自分のカレンダーを見て、自分の誕生日が金曜日ということに気づいた。ちょうど、授業は昼間に終わる予定なので、そこから「N」と会うことが可能だ。私はメッセージアプリをタップし、「N」に会えそうな時間を送り、場所は任せると連絡した。
『じゃあ夜6時に、〇〇駅で会おう。ちょうどその近くに、カフェがある。』
時間を置くことなく、「N」からは詳細な場所を提示された。私の連絡を待っていたのかもしれない。
『じゃあ、その時に。』
私は短くそう返した。
「N」からは、また無料スタンプが来た。私はそれを見て、これ以上の会話は、当日会った時のお楽しみにしておこう、という内容に見えた。
―———そして時は流れ、私の誕生日になる。
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