第2話

7月7日、今日は七夕だ。

俺の街には織姫神社というモノがあって今日はその神社でお祭りがある。


織姫様っていうと古いお伽話の世界の様に思えるが、この街は織物の街として栄えて来た歴史がある。

その中で織物の神様をココに建立こんりゅうして造られた神社だそうだ。


そしてその神社にはある言い伝えがある。

『7月7日に織姫神社で縁結びの御守りを買ってその日に枕元に置いて寝ると、夢の中で想い焦がれている人が現れて一緒になれる。』というものだ。


もちろん俺はそんなモノはただの迷信だと思っている。


だが、SNSを見てみると『願いが叶った』っていう話しがかなり書き込まれていて・・・

一度だけ俺も試して見ようと考えた。


何しろ生まれて17年間一度も彼女なんていた事ないんだから・・・

『思い焦がれる人を夢見る』くらいはあってもいいじゃないか?


俺は高校の授業が終わると同時に織姫神社に向かった。

織姫神社は高校から歩いて30分位の割と近い位置にある。

普段学校では「迷信や都市伝説の類は一切信じない。」と俺は宣言しているので誰かに見られていないか周りの事が気になったが、幸いにも誰にも会う事なく神社の入口までたどり着く事が出来た。


織姫神社の社殿は街を見下ろせる小高い丘の上に在り、そこまでは長い石段が続いている。

普段運動とは縁が無い俺は息をきらせながら石段を上がって行った。


梅雨の時期なので普段の空は厚い雲に覆われて居るのだが、こんな時に限って雲が切れて西日がさしてきた。

俺は汗まみれになりながら最初の鳥居をくぐり階段を上がって行く。


「今日は七夕だから天の川が見られるかな? 彦星と織姫は会えればイイナ。」


突き刺す様な西日を受けながら呑気にそんな事を考えていた。


俺は最後の鳥居をくぐり、やっと境内にたどり着く。

そして呼吸を整え額の汗を拭き社殿の前まで歩く。


「ん、何をお祈りすればいいんだ? とりあえず『今晩いい夢見れます様に』とか? 」


こんな願い事を神様はまともに取り合ってくれるのか?

いやいや『信じる者は救われる』というじゃないか?


とにかく俺は17年分の想いを込めてお祈りした。


「アラッ? デンチュウゴン太くんじゃない? 」

デンチュウゴン太?

何だそりゃ?


社務所の中から声をかけられて、俺はそちらを凝視する。

そこには見た事がある顔が・・・

朝の白いワンピース着たお姉さんが、今は巫女の衣装で俺の目の前に居た。


聡太ソウダ! 」

俺は自分の名前を叫んでみたが変な発音になってしまった。


「あっ! やっぱりデンチュウゴン太くんだ。」

おみくじ売場の彼女は俺を見てニコニコ微笑みながら手を振った。


巫女の服着たもう一人のお姉さんが「奈々、誰? 知り合い? 」って聞いてきた。


「ウン、話せばながくなるけど・・・」

って言い出したところで俺は話しを遮った。

俺は朝の話しをこんな所でされて恥ずかしい思いしたくなかった。


「あの〜 縁結びの御守りください! 」

なんとか上手く話しをそらす事ができた。


「ハイ、分かりました。今晩、いい夢見れたらいいですね。それから・・・ 怪我、大丈夫ですか? 」


「ハイ、お陰様で・・・ それからハンカチお返ししないと・・・」


「そんな事、気にしないでください。そんな事よりゴン太さんが街で困った人を見かけたら、今度はゴン太さんが助けてあげてくださいね。」


「ハイ、ありがとうございます。」

本当は聡太なんだけど・・・

奈々さんのキラキラした眼で見つめられると、そんな事どうでもいい事に思えてくる。

もっと、出来れば何時間でも奈々さんと話していたいけどそうもいかない。


「晴れ間が見えて来ましたね。今晩、天の川見られるといいですね~」

縁結びのおみくじを受け取ると、そんなどうでもいい事を言って俺は織姫神社をあとにした。

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