魔術師が集まる

「そういえば、この学園に魔術師が在籍しているのは知っていますか?」


 仲良くなった? かはよく分からないが、とりあえず敬語はなしでと言い始めたソフィアが唐突に口にする。


「俺だろ、めっちゃ炎使ってくるイリヤだろ……在籍してるのは知っているが? っていうか、制服焦げたぞ、どうしてくれんだ。一人だけ上がなくて集団心理の不快恩恵てんこ盛り状態だぞ。虐めなくてもよかったじゃないか」


 周囲の生徒からから浴びせられる視線が制服のせいだと言い張るセシル。

 恐らく、王女と公爵令嬢が一緒に座っているからだろうが、そこは考えていないようだ。


「あら、ごめんなさい。あとで手配しておくわ」

「冗談で言ったつもりだったんだけどありがとう。代わりに菓子折りプレゼントするよ」

「……セシルくん、順応早いね。臆さないその精神にアリスちゃんは尊敬を隠し切れません」


 アリスにはまだまだ早いステージであった。

 先に堂々といつもの口調に戻ったセシルを見上げて、尊敬の念を送る。


「そうではありません。セシル様やイリヤの他にも在籍しているという話です」

「へぇー、珍しい」


 魔術師の数が少ないのは何度も述べた通り。

 その中で、学生という年齢で魔術師になった人間は少なく、セシルやイリヤは希少という分類に入る。

 ただでさえ少ない希少な存在が、自分達以外にもこの学園にいるというのは驚くべき話だ。


「どうやら、巷で噂されていることが―――」

「始まりの最愛者ラヴァ―!」


 アリスは食い気味に立ち上がって興味を示す。


「ふふっ、ご存じなのですね」

「それはもうなんだよ! 私も、その人を探しに来たも同然なんだから!」


 先程の委縮した態度はどこに行ったのか? お目目キラキラ、嬉しそうな顔、どれもが年相応の女の子のようで可愛らしかった。

 横にいるセシルはそんな顔を見て「うーん、いい目の保養」とご満悦だ。


「今年、この学年に現れるという英雄の守りたかった者! 会えば魔術の真理に辿り着けるとか色々謎はあるけど、その前に「一体誰なのか!?」が気になる!」

「恐らく、魔術師の方々はその噂を確かめにやって来たのだと思われます。人気者ですね、英雄譚のヒロイン様は」

「となると、イリヤも始まりの最愛者ラヴァ―を求めて……」

「私はソフィア様の護衛よ。正直、始まりの最愛者ラヴァ―の正体とか、魔術の真理なんて興味はないわ」


 なるほど、と。セシルは自分と同じ気持ちの魔術師を見て納得した。


「ほら見ろアリスさん。別に興味ない魔術師もいるだろうが。探求と研究精神旺盛なプレイボーイじゃない俺だけが変人ってわけじゃないぞ。謝って! ここに来る前に変人呼ばわりした俺に謝って!」

「えっ!? 今更掘り返す!? セシルくんは研究家じゃなくて発掘家だったんだね! ごめんなさい!」

「ちげぇよ、根に持つ男に訂正してほしかったわけじゃねぇよ!!!」

「いひゃいいひゃい、セシルくんいまはしょくひちゅう!」


 謝ってくれないアリスの頬を摘むセシル。

 もちもちぷにぷにな頬を摘まれて、アリスは涙目だ。


「ほんと、相変わらず二人は仲良しね」

「ん? イリヤもすればいいじゃねぇか」

「そんなことしたら首が飛ぶわよ」

「飛ばしませんよ!?」


 どこまで冷血でプライドの高い女だと思われているのか?

 不満に思ったソフィアはイリヤの肩をポカポカと殴る。一方で、イリヤの方は満更でもなさそうに笑みを浮かべるだけ。

 傍から見ていれば、二人もセシル達に劣ることのないほど仲良しだ。


「っていうか、よく知ってるよな」

「何がでしょう?」

「この学園に魔術師が在籍してるって話」


 まだ入学して初日だ。

 そんな状況下で、よくも魔術師がいると調べられたものである。


「王族はね、基本的に入学する時に生徒の名簿を閲覧することになってるの」

「そりゃまたなんで? 場合によってはプライバシーもへったくれもなくなった衝撃の事実に身辺整理を始めようか考えなくちゃいけないんだけど」

「考えてもみなさいよ、王族は誰よりも守られなくちゃいけない立場で身を狙われる立場なのよ? 敵や味方、不審人物がいないかを予め知っておくのは常識でしょ」


 そこで常識を求められても、と。

 貴族であるはずの男は肩を竦めた。


「その際、魔術師である生徒が何人も見つかりました。それも、今年入学してくる生徒の中に多数。魔術師は国にとって重要な戦力です。大方は誰が魔術師なのか? という情報は国でも抱えていますので」

「あなたぐらいじゃないかしら、大っぴらに魔術師だと公言していないのは」

「なぁ、プライバシーの保護って知ってるか? 最近は、一つの情報で色々情報屋さんに探られるようになってるご時世だぜ? 目立ちたがり屋の思春期じゃないんだから、普通は隠すだろ。とは言っても、何人かには知られてるがな」

「普通は隠さないわよ。プライバシーうんちゃらかんちゃらとか言うより、表立って公言した方がメリットだもの」


 魔術師であると示すことができれば、国は全力でサポートするようになる。

 確かに戦場に駆り立たされることもあるだろうが、金や地位といった恩恵がすぐにでも手に入る。それどころか、周囲から尊敬されることだってあるだろう。


 どちらかというと、魔術師は公言した方のメリットが多い。

 今まで極力黙っていたセシルが珍しいぐらいだ。


「いや、地位も立場も名声とかいらねぇから。アリスを守れたらそれでいいし、余計な面倒事を被るなんて真っ平だ」

「……愛されてるわねぇ」

「……愛してくれてるの?」

「おっと、この流れはマズイぞ。何がマズイかはよく分からないけどもなんか返答次第で子猫ちゃんに追い詰められるネズミさんになる気がする!」


 セシルの慌てように、イリヤとアリスがくすくすと笑う。

 からかわれていることを理解したセシルは「男女比上げてくんねぇかな」と贅沢な愚痴を零した。


「まぁ、何が言いたいかという話に戻りますが───十分お気をつけくださいね、セシル様」

「あ、どうして?」

「ふふっ、なんでもですよ」


 どこか意味深な笑み。

 それを受けて、セシルは首を傾げた。

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