相席食堂
さて、結局教師から怒られてしまった三人。
いきなり魔術戦を繰り広げてしまえば怒られるのは当たり前なのだが、思ったほど怒られなかったのは意外であった。
もしかしなくても、相手が魔術師だからというのがあるかもしれない。
魔術師に貴族のような分かりやすい立場などは設けられていないものの、国としては重要視している。
敬った方がいいのか? はたまた一生徒として見た方がいいのか?
明確な立場が設けられなかったからこそ、扱いが難しかったという理由もあって思ったほど怒られなかったのだろう。
補足として言っておくが学園では爵位関係なく伸び伸び過ごせるよう、学園内では爵位関係なく平等にをモットーにしている。
セシルが侯爵家の嫡男だから、イリヤが公爵家の次女だから―――なんて理由で怒られなかったというわけではないのは予め言っておく。
―――というわけで怒られ終わった三人ではあるが、そのあとは教室に戻って一通りの学園説明を生徒と一緒に受けた。
無駄に怒られて不機嫌だったアリスだが、憧れていた学園の説明だったからかすぐに機嫌が戻っていった。
そして、学園説明が終わったアリスとセシルは、現在学園にある食堂で昼食を取っていた。
「(ねぇねぇ、セシルくん)」
どれだけのお金使ってるんだろう?
そんな疑問が浮かび上がるほどの目の前の料理に中々手が出せない庶民派アリスちゃんが、口ではなく長年鍛えたアイコンタクトで横に座るセシルに話しかける。
「(なんじゃいアリスさん。さっさと食べないと、お兄さんが頬張っちゃうぞ~?)」
「(やだよ、私のお小遣いから出した学費で出た高級料理なんだよ!? ルルミア家からもらったお小遣いだけども! 一生懸命貯めて出たんだ頑張ったんだぞうが—!)」
「(別に高級料理じゃないでしょうに。うちじゃよく出てただろ―――って話は置いといて、結局どういうご用件で?)」
アリスとは違ってガンガン料理を口に運ぶセシル。
特になんら思っていなさそうな顔に、アリスはジト目を向ける。
「(いや、言わなきゃ分からない?)」
「(いや、なんとなく言わんとしてることは分かるぞ。
「(じゃあ―――)」
アリスは、アイコンタクトをやめて正面に顔を向けた。
そこには—――
「あら、これ美味しいわね」
「ふふっ、城では中々食べることのない料理ですね。こういうものも悪くないかもしれません」
艶やかな金髪をサイドに纏めた少女と、先程ドンパチした少女が目の前に座っていた。
「(なんでここに王女様と公爵令嬢様がいるのかなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?)」
関わりたくないとトンズラを決めていたはずの相手が目の前にいることに、アリスは器用に叫ぶ。
アイコンタクトのメリットは声が出ていないということだろう。
つまり、どれだけ傍で叫ばれようが決して耳が痛くならないのだ。
やったね、鼓膜が破れる心配はないぞっ!★
「(いやさ、俺だって極力関りたくなかったよ。自由気まま、誰の干渉も受けず伸び伸びとした人生を送るために人生の半分以上をベットしてきた男だぜ?)」
「(だったらどうして!?)」
「(はっはっはー、何も分かっていないなアリス……逃げる前から堂々と飯に誘われたら断れるわけがないだろう?)」
―――少し前。
昼食の休憩に差し掛かったタイミングで、セシルは少しお花を摘みに席を外した。
綺麗な花を摘み取ることができてスッキリしたタイミング。直球に言えばトイレから出てきた瞬間に、セシルはイリヤとソフィアに捕まってしまったのだ。
アリスもアリスで、二人が一緒に食事することは驚きもした。
話している内容からも分かる通り、避けたかったのは山々ではあったのだが……ここで唯一の信頼できるセシルがいなくなった状況、貴族オンパレードの環境で一人ご飯の食べるのは流石にキツイ。
それによってそれが今に至る。
「(俺だってさ、嫌だったんだよ……でも破滅フラグは回避できないんだなって、教科書に載っていない教訓を学んだよ。だから俺は目の前に華がいるって思うことで諦めた)」
「(うぅ……ご飯を食べるはずの時間なのに胃から変な音が聞こえてくるんだよ)」
現在進行形で胃がキリキリしているアリス。
せっかくの高級料理が、ストレスで食べられなくなってしまいそうだ。
「あの、どうかされましたかアリス様?」
「ふぇっ!? な、何がですか!?」
「いえ、何やらお腹を押さえていらっしゃったので体調でも優れないのかと……」
その原因がもしや自分のせいだとは思うまい。
「あの、お気になさらず……」
なんてことはもちろん言えないので、必死な笑みを浮かべるアリス。
それを受けて、ソフィアは小さく笑った。
「ふふっ、どうかそんな堅い態度は取らないでください。この学園では皆様が平等———どうか私のことはソフィア、と」
「ハードル高いですよ!?」
セシルと行動を共にするようになってから貴族に触れる機会は増えてきたアリスではあるが、王族相手にいきなりフランクに接するのは難しいだろう。
アリスの意見はごもっともだ。
「セシル様も、どうか友人と接するようにしていただけませんか?」
「いや、ですが」
セシルは横にいるイリヤに視線を向ける。
朝方「口の利き方が~」うんちゃらかんちゃらを言われたばかりだ。
楽に接してもいいのならそうした方が楽なのだが、それを護衛である彼女が許してくれるかは分からない。
しかし―――
「別にいいわよ。私はソフィア様の許可があるのなら、そこに口出しはしないわ」
「そ、そうですか……」
「ちなみに、私に対しても構わないわ。戦った仲だし、あの時のあなたの口調の方が幾分か接しやすいもの」
予想外の肯定に、セシルは言葉に詰まる。
だからからか、セシルは横にいるアリスに視線を向けて小さく頷いた。
「(らしいぞ)」
「(らしいで解決する問題じゃないんだけど!?)」
アリスは人任せな相棒にめいいっぱいに頬を膨らませた。
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