学園の前にて

次話から毎日9時、18時に更新( ̄^ ̄ゞ


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 少し、セシルの最愛者ラヴァーであるアリスについて話そう。


 出自はなんの特別のない孤児。

 実は貴族だったとか、魔術師の追い求める始まりの最愛者ラヴァーだったりとか、そういう話は一切ない。

 ただ両親が幼い頃に亡くなり、孤児となって教会で働いていただけ女の子だ。


 その働いていた教会がルルミア領にあって、一応の信者であるセシルと出会って仲良くなったというだけ。

 今に至るまでの過程に色んなことはあったが、現在はセシルの最愛者ラヴァーとして一緒に行動を共にしている。


 名目上はルルミア侯爵家の客人となっているのだが……すでに家族ぐるみで仲がいいので、多少表現に違和感はあるだろう。

 どちらかというと、国家レベルで重宝される魔術師の最愛者ラヴァーだから───というのがしっくりくるだろう。


 念のために述べてはおくが、二人は決して恋人関係ではない。

 といっても、二人に互いをどう思っているのかはまた別の話ではあるが、そこは追々の話になるだろう。


 アリスは孤児だ。

 裕福な暮らしからは縁遠く、一人の女神を信仰するごく普通の女の子。

 つまり、何が言いたいかというと───


「青い空、白い雲、そしてここが……学園だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 馬車に揺られること一時間。

 アリスは馬車から降り、開口一番にテンション上げ上げで歓喜の声をあげた。


「ここが学園! 若者達が切磋琢磨し、勉学に励む場所! 数年だけの短い期間で、互いの友情を育み青春の一ページを刻み込む楽園! 私は……私はついに、学園に来たんだやったねひゃっほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉいっ!!!」


 可愛らしい容姿、一人だけ身に着けているウィンプル、突如始まった奇行。

 素晴らしい三拍子のおかげで、大きく聳え立つ学園の前でアリスは見事に注目の的となった。

 さながら、路上で突如始まるワンマンライブのようだ。


「なぁ、アリス……お兄さん、ファンサービスを常時考えてるアイドルじゃないんだからさ、初手からそんなに目立たないでくれない? 客席見るのが辛ぇよ……」


 セシルも続いて馬車を降りる。

 その表情は喜々としているアリスとは裏腹に、気だるそうでげっそりとしてものであった。


「何言ってるの!? この湧き上がるビートを解放しないと、クラスの人気者にはなれないよ!? まずは目立つこと、じゃないと友達百人なんて夢のまた夢なんだよ!」

「そっかー、百人かぁ……頑張ればいけそうな現実的な数字にちょっと戦慄」


 アリスのテンションに、思わず苦笑いを浮かべるセシル。

 今にセシルはほしかった玩具を買ってもらえて喜ぶ子供を見守るような父親みたいであった。


(とはいっても嬉しいんだろうなぁ、学園に通うの。教会にいた頃じゃ、学園に通う金なんかなかったし)


 学園に通うにはお金がかかる。

 そんなの当たり前の話だし、誰もがしていること。

 でも、それは貴族や商人といった裕福な家系に生まれた人間だけだ。


 一部の平民や孤児にとっては、学園に通う費用も馬鹿にはならない。

 今の生活を維持する人間にとっては、学園に通うためのお金など捻出できるはずもなし。

 それが分かっているからこそ、一度は夢を見て諦める若者も少なくない。

 今まで口にされたことはなかったが、アリスもそのうちの一人だったのだろう───今の反応を見れば、それがよく伝わってくる。


 ちなみに、今回の学園の費用───アリスが侯爵家に住み始めてからコツコツと頑張って貯めたお金から捻出されている。


「だとしても、面倒臭いことには変わりないんだよなぁ」

「ふぇっ? なんか言った?」

「……いや、なんでもねぇよ」


 セシルはネクタイを緩めながらアリスの横に並んだ。

 その時───


『ねぇ、あれって「無能貴族」じゃない?』

『ほんとだ、「無能貴族」だ。学園なんか通いそうもないのに』

『どうせ遊びに来ただけだろ。いつも遊んでばかりって聞いてるし、そのうちまたいなくなるさ』


 校門前にいた生徒から、そんなヒソヒソとした言葉が聞こえてきた。

 流石は入学初日だからだろうか、同い年の生徒らしき姿が多く視界に入る。

 仮にも侯爵家一人。流石に大っぴらに悪口を叩くわけにもいかない。

 故に、誰も構おうとせずヒソヒソとした声だけが聞こえてくるのであった。


「これじゃあ、有名人なせいで友達百人も本当に夢のまた夢だろうな。どうするよ? 今からでも『友達募集中』のプラカードでも掲げるか?」

「ここで頑張って噂を消そうという提案がこなかったことにお姉ちゃん驚きです」

「おーおー、ここで年上マウントですかね、うぅん!?」

「えぇっ!? どう見ても私がお姉ちゃんじゃん! 寝坊助さんを毎日起こしてるの誰だと思ってるの!? 最近はお姉ちゃん通り越してお母さんポジじゃないかな? って思っちゃうぐらい貫禄が出てきたんだぞうがー!」

「さっきの行動は明らかにお子ちゃまだったでしょうに!? 自分の行動を鑑みてから発言しなさい! 客観的に見ないと、いつか同い年の起こしにきてくれる女の子を無視して寝て起きて遊びまくってのクズ野郎みたいになっちゃうぞ!?」

「ブーメラン! 自覚のあるブーメラン!」


 あーだこーだ。

 大変仲のいい二人である。


「……まぁ、どっちが年上ポジかは追々白黒決着をつけるとして───結局、これからどうすればいいわけ? なんか余計寄り道しちゃったけど、間に合ってんだよな?」

「寄り道って言い方さいてー。人助けは寄り道じゃないの、お祈りも寄り道じゃないんだよ!」

「はいはい。別に責めたわけじゃないし、急に悪者にせんでくれ。読者さんも急な悪役登場で展開に追いつけなくなっちまう」

「それが物語の面白さだと思うんだけど……ともかく、まずは自分達のクラスを見つけて教室に行く感じじゃないかな?」

「うーっす」


 セシル達は互いに確認を取ると、周囲の声を無視して学園へと入っていく。

 とりあえず入れば分かるだろ、と。楽観的なことを思いながら。


「ねぇ、セシルくん」

「ん?」


 その時であった。


「楽しみだね、学園!」


 横を歩くアリスが、華のような笑みをセシルに向けた。

 とても嬉しいのだと、そんな感情がありありと伝わってくるような、見蕩れるもの。

 それを向けられたセシルは、年相応の男らしいうぶな反応は見せなかった。

 その代わりに、小さく口元を綻ばせる。


「目的は始まりの最愛者ラヴァーを探すことだけどな」

「それもあるけど、それでもなんだよ! セシルくんのおかげだね……ありがとっ!」

「……どういたしまして、相棒パートナーさん」


 アリスの笑顔を見ていると、胸の内が温かくなる。

 それはアリスだからか、それとも目を惹くような美少女だからか。

 恐らく前者だろうな、と。セシルは横にいる少女を見てそう思った。






「そういえば、この学園……見るからにお高そうな感じがするんだけど気のせい? 平民出身のアリスちゃんセンサーがビクビクと怯えてるんだけど」

「まぁ、国中から有数の貴族が集まる王立学園だからな」

「んえっ!? じゃ、じゃあ私の友達百人計画は……? 相手が貴族さんばっかりだったら平民の私にお友達って無理じゃん!」

「アリスさんやい……そんなことも知らずに入学しちゃったのか」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


次話は明日9時に更新!


面白い!続きが気になる!

そう思っていただけた方は、是非とも星やフォロー、応援やコメントをお願いします!🙇💦



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る