姉から逃げたい俺はバイトをする。※売る商品はゲテモノ※
あれから数日後の休日俺は、炎天下の中モフモフの体を焼いていた。
家を出て電車に乗って30分たった所の人通りが少ない場所にある全国チェーン店。
もちろんこんなモフモフの格好でコンビニまで来たわけではない。
そんなことをやっていたら狂人である。
ではなぜ家から着ぐるみを着てここまで来たかというと、店長から店のフェアの認知を広めるべく家から着て来いとの命令を受けたためである。
そんな職権乱用店長の佐藤さんは、俺がコンビニ着くや否や自分の身長並みに大きいプラカードを俺に手渡してきた。
そこには、【ずんだ餅の味噌煮フェア!商品を買って君もずんだ君と握手しよう】と書かれていた。
うちの店は確かに前々からゲテモノ商品を取り扱うコンビニとして有名だが、今回の商品はこれまでの商品と群を抜いてヤバい商品として出来上がっていた。
(いや、ずんだ餅の味噌煮ってなんだよ。これ人に食わしていい物なのか?)
俺がこれからPRする商品に対して疑問を覚えていると、コンビニの入り口から奇声が聞こえてくる。
奇声の出どころまで行くと、数々の女を侍らすイケメンと目が合った。
「あ、兎斗いた。良かった~ここであってたんだ」
「いやそんな普通に接されても困るんだけど、その女性たちはなんだよ」
俺は弘人に対してもっともな疑問を投げかける。
「ん?あーなんか男に「絡まれている所を助けたらなんかお礼がしたいって言ってくれてさ。だからバイトの手伝いをしてもらおうと思って」
(いやお礼ってそういう意味じゃないだろ)
俺は弘人の後ろに佇む女性たちに憐憫の視線を向ける。
彼女たちはまさかバイトの手伝いをさせられるとは思ってなかったのか鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。
(あー聞いてなかったんだな)
「じゃあ僕は裏で早速着替えてくるね♪」
弘人はそういってそそくさと裏に行った。
その場に取り残された俺と被害者。
家族みんなでご飯を食べている時とは違うが、別の気まずい空気が流れる。
「あーとりあえず今日は帰りますか?」
「はい」
女性たちは小さく返事をすると暗い空気を漂わせながら帰っていた。
さながら亡者の行進である。
おそらく夜見たら通報されるレベルの暗さがあった。
俺がそんな可哀そうな背中を見送り彼女たちが通報されないことを願っていると、裏から弘人が制服を持って出てきた。
「兎斗~こっちとこっちの制服どっちがいいと思う?」
「服屋に行った女子の定番のセリフ言ってないで早くしろ」
弘人の問いを一刀両断し、さっさと制服を着てくるように促す。
「あれさっきの子達は?折角バイト手伝ってもらおうと思ったのに」
そう言って弘人は頬を膨らませながら裏に戻っていった。
「あいつに人の心はないのか?」
「…」
俺が弘人が裏から戻ってくるのを待っていると、店長の佐藤さんが無言でそばに立っていた。
俺はこの人が喋っているのを見たことがない、メッセージアプリで連絡してくるときはひっきりなしにメッセージを送ってくるのに謎である。
俺が店長について考えていると、弘人が裏から制服を着て出てきた。
店長は弘人が出てきた事を確認すると無表情で俺らを指さし外に行くように指示を出す。
俺は流石に長年一緒に働いてるだけあって店長の意図を察して毛皮を着て外に出た。
俺の後ろを追いかけてくる弘人が話しかけてくる。
「で、今日の仕事内容は何?」
「ん?これ」
俺はそう言いながら【ずんだ餅の味噌煮フェア!商品を買って君もずんだ君と握手しよう】の看板を見せる。
「ずんだ餅の味噌煮?」
「うん」
「無理じゃね」
「うん」
……無理だよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます