姉から逃げたい俺は姉に意見は難しい

「それで何か言い訳はあるの?」


沙希は、微笑みながら何故か持っている竹刀を地面に叩きつける。


怖―い、何で竹刀持ってんのこの人。

今から叩かれちゃう!?叩かれちゃうの!?


「ねえ?何でお姉さんあんなに怒ってるの?遅れたことは確かに悪いけど、流石に怒りすぎじゃ」


俺が一人脳内でバカ騒ぎしていると、弘人が俺の制服の裾を掴んで引っ張て来た。


くそ、男のくせに何故か仕草が可愛い!腹立つ!


「お姉さん?あなたにお姉さんなんて呼ばれる筋合いないわ」


沙希は、弘人にお姉さんと言われたのか気に食わないらしく、怒り心頭といったとこか。


「いや姉さん切れすぎじゃないかな?ほら別に男にお姉さんって言われただけだし」


「男……ね?」


沙希は弘人をジーっと見つめていた。


お、なんだ見てみたらイケメン過ぎて反応に困っているっていうとこかな?

俺の【イケメン弘人を姉たちにぶつけて惚れさせよう大作戦】成功か?


俺がそう思ったのは束の間、沙希は顔をプイっと逸らして俺の方を見つめてきた。


「やっぱり、イケメンね」


おいおい沙希、激ちょろじゃねーか!やっぱイケメンが好きか!

だよな、やっぱり女はイケメン好きだよな!


俺が内心ガッツポーズをしていると、沙希が手に持った竹刀をこちらに向けてきた。


「何ニヤニヤしてんの?キモイわよ愚弟」


「エマージェンシーエマージェンシー、只今俺の目の前で怒っている人物を発見、対応求む」


「兎斗は、よくこんな怒ってる人の前でふざけられるよね、尊敬するよ」


般若の顔をしている沙希の前でいつも通りふざける俺を横目に弘人は呆れながら皮肉を言ってくる。


「いや、空気変えようと思って」


「いや、さらに悪くなってるけど」


弘人がそう言って指をさした先には、眉間にしわを寄せ、怒りのこもった目つきでこちらを睨みつけていた。


「あんたはそんなに私が嫌い?黙ってることもできないの?」


嫌いです!黙ることもできないです!……なんて事言えるはずもなく。


「はい、すみません」


そう言って、屋上の隅で縮こまっている事しか出来なかった。


「何で僕たちは昼休みに屋上に呼び出されたのでしょうか?」


「言いたいことは分かってるわよ。うるさいのを黙らせたことですし本題を話そうかしら」


そう言い沙希はようやく本題を話し始めた。が、その本題が問題だった。


「あなた今度の休み私の用事に付いてきなさい。」


「断らせていただきま……」


「断るというのなら今朝お父さんにしていた一人暮らしの件、若葉たちに話す。」


「喜んでお受けいたします」


俺はその言葉を聞いた瞬間、地面に頭をこすり付けていた。


何故か俺が父親に一人暮らしの打診をしていたことに気付いている沙希に、背中に流れる冷や汗を感じながら、感情が顔に出やすい俺は必死にポーカーフェイスを努める。


「あら、喜んでくれるなんて嬉しいわ。愚弟ならここは敬語を使って私のご機嫌取りをして、話を誤魔化してくると思ったのだけど、珍しいこともあるのね」


(脅してるくせに、良くそんな事言えるな)


「用事はそれだけじゃないですよね。その程度の話だったら廊下とかで話せばいいですからね。本当の要件を話してください!」


これまで隣で黙っていた弘人が口をはさんでくる。


(バカやめろ、この人は猛獣なんだこんな時は深々と頭を下げこの人が去るのを待った方が、被害が少なくて済む。そんな事よりもお前は、この猛獣を口説くことだけでも考えてろ)


俺は、沙希に聞こえない様に隣で猛獣に対して、無礼な口を利く弘人に危険な行為を辞めるように促す。


「本当の要件?本当の要件も何も今ここで話したことが要件よ。話聞いてなかったのかしら?」


沙希は、不思議そうに小首をかしげる。


「兎斗、友達はちゃんと選びなさい。別にどんな見た目をしていても、どんな家庭環境にいてもいいけど、人の話を聞かない奴と嘘をつく友達だけは辞めておきなさい」


そう言って俺の事を睨み付けてくる沙希、俺はその眼光に完全に委縮していた。


そんな鋭い眼光を向けてくる沙希に、弘人は目には敵意を持ちつつ口を固く結んだ。


「じゃあ、今週の土曜日よろしくね?」


沙希は、にこっと笑う。


「じゃあもういいわよ。いつまでその顔を私に見せるつもり?」


形の良い胸の下で腕を組み、しっしと手を払う。


「それじゃあ失礼します」


俺はそれだけ言って、春にしては少し肌寒い屋上を早足で一人後にした。


「……あ、やべ弘人置いてきちゃった」


俺が屋上に置いてきた弘人の存在を思い出したのは、教室の前に着いた頃だった。


                 ***

「むっ!」


そんなあざとい感じを出しながら、頬を膨らまし私怒ってますというのを顔全体で表しているのが、我が親友の弘人である。


俺は時々こいつが女なんじゃないのかと考える時があるが、おそらく俺に責任は無いと思う。


「そんな怒んなよ」


「ふん!」


俺がいくら謝罪しても許す気のない弘人。


弘人は教室に帰ってきてからずっとこの調子であった。


「兎斗なんか土曜日にダブルブッキングとか起こして、沙希さんにボコボコにされればいいんだ!」


そんな事を言いながら、教室を出ていく弘人。


「授業前には帰ってくるんだぞー!はぁー」


こういう時のこいつは当分こんな感じで僕不機嫌ですという感じを前面に出して来るので、この後の展開を考え俺は辟易としていた。


「帰りに美味いラーメン屋でも連れて行って奢ってやるか」


俺が弘人の機嫌をどう取ろうか考えていると、突然俺の肩にポンっと手が置かれた。


振り返ると、そこには委員長がいた。


「貴方、今週の土曜日のボランティア部の活動の事忘れてないでしょうね?」


透き通るような声に、普段だったら心を奪われていただろう、しかし、彼女の言葉に額から冷や汗が流れる。


「え?今週?来週の間違いじゃなくて?」


俺は最期の望みで委員長に聞き返す。そんな俺の願いとは裏腹に委員長は、首を横に振り


「はい今週です」


「日曜日?」


自分の背中から嫌な汗が噴き出す。


「いえ、土曜日です。あの顔色が優れないようですが、大丈夫ですか?」


「え、ああ大丈夫、大丈夫。土曜日にいつもの公園集合だよね?じゃあ俺は考えることがあるから」


俺はそう言って席を立ち教室を後にした。

正直に言って、今の俺には委員会活動の事を考えている余裕など少しもなかった。


「ちょっと……話はそれだけでは……もう」


最期に委員長が何か言っていた気がしたが、構わず俺はある人物の元に向かうことにした。

この時の俺には、委員長の言葉はもう耳には入っていなかった。


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