姉から逃げたい俺は結成する

「それで、時間ギリギリだったわけか」


「そうなんだよ。他の姉たちには捕まらなかったから良かったけど、捕まってたら完全に遅刻してた」


 あの後、30分ほど姉の髪の準備を手伝った俺は、1分ほどで自分の準備を終えて、息が乱れるほど全力で走ってギリギリ間に合ったというわけだ。


「まあ間に合って良かったじゃん」


そう言って俺の前で微笑んで見せたのは、友野弘人(とものひろと)高校で出来た俺の唯一の友人である。


弘人は超の付くほどのイケメンであり、弘人の笑顔は万人を惹きつけ、彼の前では最近巷で話題の超人気アイドルですら、羞恥で顔を真っ赤にして去っていくほど、こいつの顔は万人の心を魅了する。


それもそのはず、友野弘人とは十数年前名子役で名をはせたトップスターなのだから。

そのまま芸能界で生きていくと思われたが突然の電撃引退。友野弘人は表舞台から姿を消した。


こいつがあの3姉妹の弟か兄かだったら、俺みたいに姉たちに嫌われなかったのかもしれないし、姉たちと比べられることもなかったのかもしれない。

まるで創作物の世界から出てきた主人公のような男、それが友野弘人という男なのだ。


「お前にはこの苦しさが分からないからそんなことが言えんだよ」


「僕的には羨ましいけどな~」


「いいやお前には分かんないね、男なのに“姉咲”ってついてるだけで姉咲4姉妹なんて呼ばれている俺の気持ちがねプライドが傷つくんだ!」


「まあそんな怒るなよ」


「いーや怒るね。そのせいで俺がこれまでどんな色眼鏡で見られてきたか」


「それでも僕は羨ましいと思うけどな」


俺の“悩みの種”を知っていながらそう言ってくる弘人、そんな弘人に反論しようと口を開いたその時突然俺たちの教室のドアが勢いよく開かれた。


「うちの弟はいますか?」


そこにいたのは、俺が今日遅れそうになる原因を作った例のS+級モンスター姉咲沙希その人であった。

思いがけない沙希の登場にクラスにどよめきが奔り、俺の胃にも痛みが奔る。


そうなんだよ。沙希は、見た目“だけ”なら完璧なんだよなー。


鮮やかなロングの銀髪に切れ長の大きな目、肌は新雪のように白く、体のラインは主張すべきところは主張していて足はスラリと伸びており、腰は抱きしめたら折れてしまうのではないかというほど細い。


だが、暴君それがうちの姉妹の長女姉咲沙希。


しかし、今教室に来ているのはいつもの暴君モードは鳴りを潜め、代わりに優等生の皮を被ったモンスターだった。


「え、弟さんですか?」


偶々ドアの前にいた委員長が優等生の皮を被ったモンスターに襲われていた。


——うちのモンスターがすみません。


謝罪の言葉と共にトゥットゥトゥーという軽快な出発音を頭の中に響かせ、いつも世話になっている委員長を助ける為、俺はS+級モンスターもとい沙希を撃退しに向かった。


「何か御用でしょうかお姉さま」


俺の丁寧な挨拶に目の前のモンスターは気をよくしたのか、いつもの獰猛な笑みを引っ込ませ学校だけ見せる優等生の顔で微笑みかけてきた。


——お、珍しく機嫌いいじゃん。これなら穏便に話が進みそうだな。


「あんたは私に敬語使わないと死ぬ呪いでもかかってるわけ?」


——うん。滅茶苦茶切れていらっしゃる。なんて謝るか考えとこ


「まあいいわ、そんなことよりあんたお昼暇よね?屋上いるから来なさい」


俺が一人沙希への謝罪文について考えていると、沙希はため息をつきそれだけ言って教室を去っていった。


あのお姉さま、まだ私YESもNOも言っていないですが、拒否権はないということですよねそうですよね。


「はあー」


俺が沙希の不遜な態度にうんざりし、自分のベストプレイス(机)に帰り一限目の準備を始めていると、一限目の準備を既に終えた友野が笑顔で近づいてきた。


「あれでも姉がいて羨ましいというのかね君は姉に飢えすぎじゃないか?」


「そうだね。俺はそれでも羨ましいと思うよ」


俺の皮肉交じりの問いかけにに笑顔で返すこいつを見ていると、こいつはやっぱり主人公何だなと再認識する。


「あ、先生が来たみたいだ。じゃあまた」


友野はそれだけ言うと颯爽と自分の机に戻っていった。


その後ろ姿さえも絵になるっていうのは主人公だよな~

その瞬間俺に天啓が舞い降りた姉たちから逃げるための天啓が俺は早速授業が終わり次第行動に移すことにした。



休み時間俺は早速今回の作戦のキーパーソン友野弘人大先生をお呼びした。

「お前にうちの姉たちを攻略してほしい」


「何でそんな話になったんだい兎斗?」


俺の突拍子もない発言に怪訝な顔をして疑問を示す弘人。


「お前はモテるそうだろう?」


「まあ色んな女性の方に話しかけて貰えるのをモテるというならばモテるかもね」


「そう!そこでお前にはうちの姉たちを口説いてもらう」

俺が神から授かった天啓はこれである。

顔よし性格よしの弘人に姉たちの注意を前面に引き受けてもらうという簡単に言うとただの押し付けではある。

だがこれならあの姉たちもうれしい、俺も姉たちから解放されてうれしい両者WIN-WINになるという俺の完璧な作戦である。


「弘人はうちの姉たちに対して悪い感情は抱いてないだろ」


「まああの姉妹に対して悪い感情を抱いているのは、この学校で君ぐらいだしね」


「だろ、引き受けてくれるか」


「しょうがない、親友の頼みだしね」


「ありがとう友よ」

俺の作戦を二つ返事で引き受けてくれる弘人。

俺の突然の話に笑顔で頷いてくれるこいつは、本当にやさしい。


「じゃあここにAGD結成だ!」


「なんだいそのAGDって?」


俺の言葉に首傾げ不思議そうに聞く弘人。

そうだよな気になるよな!男はこういうの大好きだもんな


「姉撃退同盟だ!かっこいいだろ」


「そう……だねうん」


俺の言葉に歯切れ悪く答える弘人。

なにかおかしな点があっただろうか?は!もしかしたらTHD(兎斗弘人同盟)の方が良かったとか?


「いや、それでいいやその顔はろくなことは考えていない顔だからね」


なぜか呆れ気味にいう弘人に俺は疑問符を浮かべながら、同盟の名前を考えるのをやめる。


「“男”だったら好きだろこういうの」


「っ!そうだね!」


「?そうだ、作戦だが早速今日の昼から決行しようと思うんだ!さっき丁度あの優等生の面を被ったモンスターから招待されたことだしな」


俺はなぜかきまりが悪そうな顔をする弘人を疑問に思いながら、作戦の提案をする。


「いきなりだと僕の心の準備が!」


「大丈夫大丈夫!お前はどこに出しても恥ずかしくない子だ」


「誰目線なのそれ」


弘人がそう言いながら肩をがっくりと落とす。


「とにかく決まったことだから。行くぞ戦場に!」


俺は嫌がる弘人の手をとり戦地に赴いた。


「兎斗まだ休み時間、昼休みは2時間後」


「……」


——今日はもう帰ろうかな。


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