こうくんに姉は、いらない

「こうくんを……捨てる?」


何を言ってるのだろう

そんな事できるはずがない。

 

「あら?そんな難しい事は、言ってないわよ

 ただ、貴方がこうくんの前で、

 貴方は、弟じゃない…家族じゃないって言うだけよ」


こうくんの顔でくすくすと笑う姿を見て怒りが湧いてくる。


「ふざけないで」


「…ふざけないてないわよ、

 たった一言、こうくんに言うだけでいいのよ?それでこうくんは、


「救われる?

 何で貴方にそんな事わかるの?」


「フフ…わかるわよ

 私は、こうくんに作られたもの

 私は貴方であり、

 私はこうくんでもあるから、

 …それで、してくれるよね私?」


「…それは……無理よ」


鈴は、顔を伏せる。

そんな鈴を幻想の鈴は、

不愉快そうに見つめる。


「チッ…何で無理なの?」


「私は、もうこうくんを傷つけたくない…」


「そしたらこうくんは、

 ずーとこのまま、このトラウマに苦しむ事になるそれでいいの?」


「そんなの良くない!!

 でも…私は」


「ハァ…結局あなたは、自分が傷つきたくないだけじゃないの?」


その言葉を鈴は、否定することができなかった。

(…そうだ、本当は、

 こうくんを心配してるのではなく、

 私が傷つきたくないだけなのかもしれない)


鈴は、拳を握りしめる。

自分の情けなさと醜さに、


(…これじゃお母さんに怒る資格もないじゃない)


「…ねぇ…?」


「…えっ?」


幻想は、今までとは、打って変わって優しい声で語りかけてくる。


「私ね…嬉しかったの、

 こうくんに話しかけられて触れられて

 そして…助けられて…

 私は、感謝したわ

 こんな祝福を私にくれて、

 これでこうくんを幸せに出来るって!!」


「………」


「……でもこれは、

 祝福じゃなくて呪いだった」


「…えっ…のろ…い?」

 

鈴は、予想外の言葉に驚く

そんな鈴をフッと笑った後悲しそうに、


「そう…呪い、助けたあの日から

 こうくんは、変わり始めたわ

 部屋に閉じこもる事も少なくなったし

 性格も前より明るくなったわ」

 

「………」


「だけどその一方で

 こうくんは、壊れていったわ…」


その後、こうくんに乗り移っている

幻想の私から聞かされる話に愕然とする。


自らの手を切ろうとした話

道路に自分から飛び出そうとした話

橋の上から飛び降りようとした話

どの話も心を抉るもので正直耳を塞ぎたくなる。


「私は、必死にこうくんを止めたわ

 だけど…止まるどころか

 ひどくなる一方だった。

 だから、私は原因を探したわ…

 そしてわかった。

 …原因は、

 そう私だったの!!こうくんは、

 私に会いたい話したい触れ合いたい

 そう思って行動に起こしていたのよ、

 一度それで成功したし、

 私も力が強くなって、

 だからこうくんは、より過激になっていった」

 

「ハハ…滑稽よね、

 私は、こうくんが自分を守る為に作った

 防衛本能なのに、

 その防衛本能がこうくんを

 危機に貶めていたなんて…本当呪いよ」


何という皮肉な結果なのだろうか

助けようと行動すればするほど

逆に危険な行動を起こさせてしまうなんて、


「だから私は、この呪いを解くと決意したわ!!だから…」


「私がこうくんに家族じゃないと

 言わなければ…いけないというの?」


「そう、それがこうくんが本当の意味で

 立ち直る方法」


そう言って、真っ直ぐこちらを見る。


「こうくんが縛られてるのは、

 家族に捨てられた悲しみじゃなくて、

 と言う希望なの

 …こうくんは、心の奥底では、ずっと待ってるのよ」


「…それなら」


「ダメなの」


「でも」


「ダメなのだって、

 …死んだ人間は、蘇らないのだから」


「…あっ…」


その言葉で気づく

私とこうくんの認識の差に、

私は、こうくんは私そしてお母さんの三人が

家族に戻るのを望んでいると思っていた。

だけどまさか、お父さんも待っていたなんて

そんなの…


「無理よね…だから否定するの

 こうくんの願いも希望も…そして幻想わたしもだから…お願い…」


(私は……うん…こうくんのために)

鈴は、下を向き少し考えた後

顔を上げるその顔は、覚悟を決めていた。


「わかった…私は」







「こうくんを捨てる」

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