母達の会話①【詩織視点】

「ごめんごめんお待たせ」


わたしは、待ち合わせ場所で待っていた

友人に遅れた事を謝罪する。


「いえいいわよ、忙しかったんでしょ」


「うんちょっと長引いちゃって」


ずっと立ち話もなんだと言う事で

落ち着ける場所に彼女と並んで歩き始めた。


そういえば彼女と直接会うのは、

久しぶりかもしれない

彼女にそう言うと


「そうね最近は、

 電話でしか会話してなかったし

 なかなかこちらに来れなかったから」

そう言って彼女笑った。


数年前の彼女は、

笑顔も忘れ相当心を病んでいた。

それが今は、ここまで回復したのかと

その顔を見て私は、ホッとした。


その後私達は、近くの店に入り

席に座り飲み物を頼む


「ここで本当によかった?

 もう少し歩けば、マスターの喫茶店に

 着くけど」


「…詩織…私が気軽に

 お義父さんに会える訳ないでしょ

 それに、孝介くんに会う可能性があるし」


「お待たせ致しました」

その時、店員さんが来て

頼んだ飲み物を置いて去って行った。


私は、その飲み物を一口飲んだ後

「まだ孝介くんに

 会うつもりはないの…寧々?」


目の前の西宮にしみや寧々ねねにそう問いかける。


寧々は、

「私にそんな資格ないもの…」と

悲しそうに顔を歪ませる。


「資格ってそんな物必要ないの

 貴女今まで陰であんなにも孝介を

 支えてきたじゃない」


私は、首をふり寧々の言葉を否定する。

寧々は、これまで人知れず

孝介くんを支えてきた。


「今孝介くんが普通に生活できていたのも、

 寧々が毎月マスターに少なくない

 お金渡してたおかげじゃない」


そう寧々をはげますが、

いやいやと寧々は首を横に振り、


「違うわ…あのお金は元々孝介くんに

 渡るはずのお金なの私が、

 もらっていい物じゃなかったの」


「そんな訳ないでしょ?

 それに、言ったら悪いけど

 寧々のあのクソ両親に渡さないよう

 上手く誤魔化してたじゃない」

 

「いいえ…結局半分も取られちゃったもの」


「確かにそうなのかもしれないけど

 マスターも言ってたわ

 もうとっくに、あいつが残していった

 お金以上渡してるって」


「………」


「それに今孝介くんが住んでる

 マンションだって、

 一人暮らししやすいようにと

 貴女がいい物件を探して家賃まで…」


「ううん…家賃はお義父さんに

 止められたから払ってないわ」


「それでもお金上乗せして、

 送ってるんでしょ?」


「…それも、最近お義父さんから、

 もう送らなくていいって、

 強く言われちゃったけどね…」


「それは、貴女の事を思って…」


ハァ…らちがあかない

いくら言おうが暖簾に腕押し状態だ。



…正直言って私は、寧々を尊敬している。


寧々は、夫が急に亡くなり心がボロボロの中

夫の残したお金を孝介くんに、

渡そうと必死に立ち回っていた。

その代償に娘に嫌われようとも、

自分の心と身体を壊そうとも、


私は精神科医だ、

その仕事上様々な人を見てきていし

人の心の弱さも脆さもよく知っている。


だが寧々は…

そんな私の常識をゆうに超えた。


私から見た寧々は、

普通なら立ち上がれない

生きる事すら諦めてしまう

そんな危険な精神状態だった。


なのに彼女は…寧々と言う母親は、

鈴ちゃんや孝介くんを

我が子を守る為ならば、

そんなどん底からでも

這い上がり立ち上がった。


私に、同じ事ができるだろうか?

…正直私には、自信がない。






「………ハァ」

私は、一つため息をついて、

チラリと空を見る。


ほんとあのバカは、

こんないい女残して死んじゃって、


…天国で私の大親友にボコボコに

されればいいわ。

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