第38話 報告
ピリピリとした雰囲気の王宮内に怒号が響き渡った。
昨日の昼頃から王宮内は異様な厳戒態勢になっていたが、
陛下に緊急報告に上がった近衛騎士副隊長の話を聞くなり、容赦なく叱りつけた。
「ジークフリートがいないってどういうことだ!見張りは何をしていた!」
「見張りはきちんとついていました。
廊下にも窓の外にも、少し離れているところにもいましたし、
客室に近付く者もすべて見ておりました。
扉も窓も鍵は施錠されたままで、何一つ壊されていませんでした。
ですが、何の兆候もなく消えてしまったのです!」
「嘘をつくな、副隊長!
お前たちがジークフリートを助けようとしたのではないのか!?」
「そんなことは無理です!俺たち近衛騎士が全員集まって協力したとしても、
王宮内には文官も女官もたくさんいるのです。
他の人間に一度も見つからずに外に連れ出すなんて、
そんなことできるわけ無いです!」
「では、どういうことだ!」
ジークフリートが幽閉されていた客室から消えたと報告があってから、
ずっと副隊長に行方を問いただしている。
ジークフリートは部下たちに慕われていた。
だから、きっとこいつらが逃げるのに手を貸したのだろうと。
頑なに否定する副隊長を問いただすのに疲れてきた時、
謁見室に入ってきた補佐官が口をはさんだ。
「陛下…屋敷の方に公爵についていかせた近衛騎士が戻って来ております。
公爵を連れて…陛下に報告があると。どうやら屋敷でも何かあったようです。
謁見室に入れてもかまいませんか?」
「わかった。連れてこい。」
少しして謁見室に入ってきた近衛騎士二人は、
ぐったりとした公爵の手足を持って運んできていた。
どうしたのか聞くと公爵は眠っているという。
補佐官から公爵をソファに寝かせるように言われると、
謁見室の端に置いてあったソファまで運んでいって寝かせる。
近衛騎士は俺の方に戻ると、報告の姿勢を取った。
「報告します。
公爵は…ローゼリア様の魔術によって眠らされました。
公爵家には行かないと抵抗された結果です。」
「…なんだと?それではローゼリアは公爵家に行かなかったのか?」
「公爵がこの状態でしたので無理はできませんでした。
ローゼリア様からは王宮へ公爵を連れて帰ってほしいと指示を受けました。」
「…そうか。ローゼリアはまだ屋敷にいるのか。」
「あと、ローゼリア様から陛下へと伝言を頼まれました。」
「伝言だと?」
「はい。一つ目です。
[陛下の大事なものはなんでしたか?]です。」
「は?」
大事なもの…なんだ、どこかで聞いたなその言葉。
「もう一つの伝言は
[無くなった後で取り戻そうとしても、もう遅いのです。]でした。以上です!」
大事なもの…無くなった後で…
まさか!
「…あ、あぁぁ。なんてことだ…。
…お前たち、もう一度屋敷に行ってローゼリアをここに連れてこい!
急げ!早くいけ!なんとしても連れてくるんだ!」
嘘だ嘘だ嘘だ。
そんなことは…あるはずがない…。
「…陛下、顔色が悪いですが、大丈夫ですか?」
副隊長に話しかけられたが、それどころではない。
ソファでのん気に寝ている公爵を蹴飛ばしたが、起きる気配がなかった。
どれだけ強力な魔術をかけられたんだ?
ローズは、強い効果のある魔術式は作れないんじゃなかったのか?
公爵の言うとおりに二人を別れさせようとしたが、
どうしてもダメならジークフリートを処刑するのも仕方ないと考えていた。
それが…この国のためになると信じて。
もし…今考えている不安が当たったとしたら…
この国はもう終わる。
なんていうことだ。
屋敷に行った近衛騎士がまた王宮へと戻り報告を聞いた時、
目の前が真っ暗になるのがわかった。
この国はもう終わった。
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