第37話 囚われの
ガチャと音がして振り向いたら、
陛下が近衛騎士を連れて部屋に入ってくるところだった。
したくはないが、これ以上状況を不利にしないためにも立ち上がって礼をする。
むこうが法を無視したとしても、俺が礼儀を欠けていいことにはならない。
少しでも付け込まれるような真似をしたら、逃げ出せる機会が完全に失われてしまう。
「まだあきらめてないのか…ジークフリート。
わかってくれよ。
この国のために、こうしなきゃいけないんだ。」
「…。」
「また後でくる。」
今のが何度目だろう。
昨日の昼前にここに入れられて、それから何度かこうして陛下が俺を説得に来る。
食事も飲み物も一口も手を付けていないのを見て、小さくため息をついて部屋から出ていく。
何度来られても返事は一緒だし、食事に手を付けるつもりもない。
これだけひどい裏切りをされて、食事が信用できるわけがない。
ジュリア王女が今どこにいるかわからないが、
俺の食事に薬を混ぜて王女のところへと連れて行かれる可能性もある。
既成事実を作らされたら、もう逃げだすことは難しい。
それよりもリアを裏切るような真似だけは死んでも嫌だと思った。
昨日の夜、水分を取らないことで喉が痛くなったが、
ふんわりと魔力に包まれたと思ったら治っていた。
空腹で胃が痛くなりそうだと感じたら、やっぱり魔力に包まれて治った。
胸元が光ったような気がしてのぞくと、リアからもらったペンダントが光っていた。
あぁ、そうか。
このペンダントの魔術式に治癒か回復が入っているのか。
こんな時でもリアに守られている事実に、心が温かくなる。
一睡もしない夜が明けて、今は昼近くになっている。
今ごろはリアも俺のことを知っただろうか。
ジュリア王女の話を隠さずにしておいて良かったと思った。
まさかこんな手で来るとは思っていなかったけれど…。
リアがまた泣いていないか…心配になる。
まだ手元に残されている剣を見て、俺が抵抗するのを待っているのだとわかる。
王命に逆らっただけでなく、近衛騎士に向けて剣を抜いたともなれば処刑は免れない。
ずっと近衛騎士として陛下を護衛していたというのに、
こんなに簡単に命を狙われることになるとは。
賢王だとは思っていなかったが、愚王だと思ったこともなかった。
平凡な王なりに考えた結果が、俺を捨ててでもリアを取り戻したかったということか。
それでもすぐに俺を殺さないで幽閉した理由はおそらく…
リアに俺の命を助ける代わりに王子たちに嫁げとかいうつもりなのだろう。
そうでもしないと、俺が死んだとしてもリアが王妃になる理由がない。
どうやったら、この部屋から逃げ出せるだろう。
多分、逃げ出したとしても待ち構えているような気もするし…。
部下たちに協力させたとしたら、あいつらまで処刑されかねない。
さすがに俺のために命を懸けてくれという気はなかった。
どうするかな…いつまでも食事を取らずにいるわけにもいかないし。
思わずため息とともにつぶやきがこぼれた。
「リア…どうしたらいいんだろうな?」
「呼びました?」
「…あ?」
振り向いたら、リアがそこにいた。
いつもと変わらない笑顔で部屋の中に立っていた。
「リト様、迎えに来ました!一緒に帰りましょう?」
「え?どうやってここに?」
「あら。忘れちゃいました?
すべての魔術式を作ったのは私ですよ?
王宮内の結界を無効化するのなんて、簡単です。
どうして…みなさんそのことを忘れちゃうのでしょうね?」
軽く首をかしげているリアを思わず抱きしめてしまう。
この華奢な身体…柔らかな感触…陽だまりのようなぬくもり。
リアだ…もう会えないかと思っていた。
「リト様…うれしいですけど、見つかる前に移動しましょう?」
「ああ、そうだな。この国から出るのか?」
「もちろん。この国にいたらまた捕まってしまいます。
では、行きますよ?」
リアに抱き着いたまま転移されると、一瞬で目の前の景色が変わった。
と思ったが、着いたのは見慣れたうちの玄関の前だった。
あのまま国を出るんだろうと思ったのに、屋敷に戻るとは。
何か必要な物を取りに戻ったのか?
…もしかして、6人に別れの挨拶をしてから、とか?
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