第36話 近衛騎士の二人
「いいから、早く帰るぞ!」
階段の下で足が止まってしまっている私を、
お父様は無理矢理腕をつかんで連れて行こうとする。
それに気が付いたグレッドとジャンが慌てて間に入ろうとしてくれる。
だが、公爵であるお父様に使用人でしかない二人が手を出すのはまずい。
とっさにいつも身を護るために持っている魔術式の紙をお父様の額にあてて魔力を流す。
すぐに魔術式が発動し、お父様の身体がゆっくりと崩れ落ちた。
「え?ローゼリア様?今何を?」
「うるさいから無理やり寝かせただけ。
これで落ち着いて話せるかしら。
ねぇ、あなたたちは近衛騎士よね?
ジークフリート様の部下であるはずの二人が、
お父様を連れてここに来たのはなぜ?
事情を知っているのなら、話してもらえないかしら。」
屋敷の中に入ってきた後、黙って立っている近衛騎士の二人に話しかけると、
二人は目を合わせて頷いた。
「お願いします!ローゼリア様!隊長を助けてください!
あれは…罠です。」
「どういうこと?」
「突然、亡くなったっていう隊長の元奥様が生きてたって。
そうするとローゼリア様との結婚は重婚になってしまうから無効だと。
俺たち近衛騎士に、隊長を取り押さえるように指示が出ました。
抵抗したら余計にまずいと思って、
隊長にはおとなしく幽閉されてくれるようにお願いして…
隊長もそれがわかっているから、抵抗せずに部屋に幽閉されています。
だけど、多分、陛下や公爵は隊長に抵抗させるつもりでした。
それで…陛下に逆らった、近衛騎士へ剣を向けた大罪で処刑しようとしてたんだと。
今も隊長は幽閉部屋にいますが、剣をとりあげられていません。
そんなことはありえないんです。
普通は幽閉する際には、最初に剣をとりあげるものです。
そうしないのは、隊長が我慢できずに剣を抜くのを待っているんです。」
「…なんてことを。」
「それだけじゃありません。
隊長は昨日の午前中に部屋に入れられて、それから何も口にしていません。
食事どころか、水分もとっていないんです。
何か薬を入れられているかもしれないからと…。
媚薬や睡眠薬を入れられて、
ジュリア王女のところへ連れて行かれるのを警戒しているようです。
だけど、このままじゃ…隊長の身体がもちません!」
丸一日以上水分も取らずに幽閉されている。
それを聞いて、怒りで行動してしまいそうになる自分をぐっとこらえる。
こういう時は落ち着かなきゃダメ…。
「…本当は、陛下から受けた命令では、
ローゼリア様を公爵家まで無理やりにでも連れて行くように言われました。
ですけど…俺たちは隊長の部下です。
その奥様のローゼリア様にそんなことはしたくありません。
でも…俺たちにはこれが限界です。隊長を助けだすことはできません。
…きっと、ローゼリア様なら隊長を助けられるんじゃないかと…。」
悔しさからか顔をゆがませ、目を赤くする近衛騎士たちに無念さを感じる。
今まで信じてやってきた仕事を否定したくない、だけど間違っている。
ジークフリート様に罠を仕掛けるような陛下に従いたくないと思ってしまったのだろう。
「わかりました。話してくれてありがとう。
ジークフリート様は、私が何とかします。」
「本当ですか!」
「ありがとうございます!」
深々と頭を下げてくる近衛騎士たちに、礼はいいわといいながら、お願いをする。
「お父様を王宮へと戻してくれる?陛下の所に。
ローゼリアに眠らされたと言っていいから。
それで、陛下に伝言をお願いしたいの。」
「わかりました。伝言とは?」
「グレッド、今の話聞いてたわよね?すぐさま他のみんなも連れて来て。
リト様を助けるために作戦会議するわよ!」
「わかりました!」
近衛騎士の二人がお父様を担いで馬車に乗せ、王宮へと戻って行ったのを見届け、
すぐさま行動を始める。
まずは…6人と作戦会議をしましょう。
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