第28話 王妃の言い訳

聞きたくないような気もするが、事情を聞かないといけないような雰囲気に、

あきらめて陛下に話しかける。


「何があったんですか?」


「ああ。ユールは…自室で謹慎させているんだが…話を聞けていない。」


そういえば、卒業パーティーでのユール王子のやらかしがあったか。

公式の場で両腕に令嬢をぶら下げて、婚約者でもない令嬢を呼び出し、

婚約解消するぞと脅した。

しかも相手はローゼリアで、もうすでに結婚して人妻になっている。

ローゼリアと結婚できないとわかると、気を失って倒れた。

その一部始終を…同じ学年の令息令嬢たちに見られてしまった。


これから…婚約相手を探さなければいけないというのに。

見つかるのだろうか?

ローゼリアを結婚相手にと考えていたのは陛下も同じで、

そのために第一王子のケニー様と第三王子のライネル様も婚約者がいない。

まだ十六歳のライネル王子はともかく、

すでに学園を卒業して王政に関わっている二十歳のケニー王子に婚約者がいないのは、

この国にとって相当まずいことだ。


「王妃様には話を聞いたのですか?」


「それがな…王妃はユールだけでなく、

 ケニーとライネルにも同様の嘘を言っておった…。」


「は?」


「八年前、ローゼリアが王宮に来なくなった時、三人とも落ち込んだらしい。

 それを慰めるために、そんな嘘をついたそうだ。

 ローゼリアが王子妃となるために頑張っているのだから、

 王子たちも自分の勉強を頑張るようにと。

 三人は三人ともローゼリアと結婚するのは自分だと思っていて、

 他の王子にその話をすることも無かったそうだ。」


「はぁぁぁああ?」


「…真実を知ったケニーとライネルも暴れて…気を失って、寝込んでおる。

 謹慎していると言ったが、実際にはユールも部屋で寝込んでいるだけだ。」


「王妃様は…それについては?」


「ずっと泣いていて話にならん。

 だって、かわいそうだったから、と言って泣いてな。」


「えええぇ。

 もしローゼリアが俺と結婚しなかったとしても、結婚できるのは王子一人ですよ?

 他の王子二人をどうするつもりだったんですか?」


「知らん。

 …おそらく、王妃は何も考えておらん。

 可愛いローズを自分の義娘にすることしか頭になかったのだろう。」


「あぁ、そういえば。王妃様はローゼリアのことが好きでしたね。」


どこから見ても完璧な美少女だったローゼリアを人形のように可愛がっていた。

泣かないし、落ち着いているし、いつも微笑みを絶やさないローゼリア。

その年齢ではおかしいのだと気がつかないまま、見た目だけを可愛がっていた。


「十歳ではまだ結婚の話が早かっただけで、

 大人になったらローズだって王妃になりたいと思うはずだと。

 あれほど素晴らしいローズが王妃以外になるわけがないと思っていたようだ。

 確かに、ローズ以上の令嬢など…見つからないだろうからな。」


「ローゼリアは王妃になりたいなんて思ったことないでしょうね。

 あの王子三人がローゼリアに何をしていたか、報告されていたでしょう?

 あんなことしてて好きになってもらえると思う方がおかしいです。

 ローゼリアは王子たちのことをかなり嫌ってましたからね。

 俺がいなくても、絶対に王子たちとは結婚してませんよ。」


「…ローズはどうしている?」


「ローゼリアは元気ですよ。屋敷で楽しそうにしてます。

 今朝は使用人達と敷地内に畑でも作ろうかなって言ってました。

 焼きトマトが美味しかったから、自分でトマトを育ててみたいそうです。」


「はぁぁぁ。才能を無駄使いさせるなよ。」


そんなこと言われても。

そう言い返す前に間に入ってくれたのは宰相だった。


「陛下。お言葉ですが…ローゼリア様の意思を尊重しないから、

 こうなったのではないですか?」


「意思を尊重?」


「ええ。ローゼリア様の才能は素晴らしいです。

 人ひとりで出来る範囲を軽く超えてしまっています。

 これ以上求めるのは…贅沢ではないでしょうか。」


「なんだと?」


「この国はローゼリア様の才能に頼り過ぎだと思うのです。

 本来なら爵位を持たない令嬢で、つい先日まで未成年だったローゼリア様です。

 好きに生きていても何も言われないはずです。

 それなのに、国のために働かせすぎじゃありませんか?

 求めすぎてしまったら、ゼロになってしまうかもしれませんよ。

 ローゼリア様が逃げようとしていたの、陛下もお聞きになりましたよね?

 今度こそ、逃げられたら…どうするおつもりですか。」


「…ジークフリート。ローズは逃げると思うか?」


「今のところは…大丈夫じゃないでしょうか。」


俺がいるから、とはさすがに恥ずかしくて言わないけど。

俺がこの国にいる限りは、いてくれるんじゃないかと思っている。


「そうか。」


何をどう判断したのかはわからないが、陛下も納得したらしい。

今日も辺境の貴族が魔獣の被害を訴えに来る予定になっている。

陛下らしく、きちんと座っていてもらわないと困る。


「陛下、それでは今日の予定を…」


宰相が陛下に予定を説明し始め、俺は陛下の斜め後ろへと移動する。

他の近衛兵と交代しながら、今日も陛下の護衛を務める。

たまに聞こえる陛下のため息は…聞こえなかったことにしよう。

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