第23話 王子vs夫(ジークフリート)
「お前がローゼリアと呼び捨てにするな!
俺の婚約者に決まったと言ったのは母上だ!
この国の王妃が言ったのだ!間違いないだろう!」
「陛下…どういうことですか?」
振り返って陛下を見ると、真っ青な顔で首を横に振っている。
「そんな事実はない!」
それはわかっているが、確認しなければ始まらない。
俺が言うよりも父親である国王が言ったほうが早いだろうと思っただけだ。
「ユール王子、陛下もこう言っています。
ユール王子に婚約者はいないのです。」
「は?父上、そんなわけないでしょう?
10歳の時に、ローゼリアが急に来なくなったのは、
俺の婚約者に決まったから、王子妃教育で忙しくなったせいですよね?」
「…そんな事実はない。」
「嘘です!だって、そうしたら、母上が嘘をついたことになります!
そんなわけないじゃないですか!」
取り乱したのか両腕に抱きついていた令嬢を振りほどき、陛下の方にいこうとする。
危険を感じた近衛騎士が一歩前に出ようとしたが、陛下がそれを手で制した。
「落ち着け、ユール。
なぜ王妃がそんな嘘を言ったのかはわからないが、そんな事実はない。
ユールとローゼリアが婚約していた事実はない。」
「そんな…だって、俺の妃になれるような令嬢は、
ローゼリアしかいないじゃないですか!
だから…婚約していないとしても、
俺とローゼリアが結婚するのは当然でしょう!?」
「…それは無理だ…。」
「どうしてですか!?」
俺とローゼリアを無視して陛下に詰め寄っている第二王子に、
さすがにイラついてくる。
どうして自分がローゼリアと結婚するのが当然だなんて言えるのか。
あれほどローゼリアを傷つけ、嫌われていることに、なぜ気が付かない。
今だって、これほどまでに嫌がられているというのに。
あの頃も愚かだとは思っていた。
王子としての教育は問題なく受けているが、肝心なところが間違っている。
好きな女を虐げて喜ぶような、こんな王子にローゼリアを渡してたまるものか。
「ユール王子。」
「なんだ!うるさいな!」
振り向きながら叫んだ王子と顔色を悪くしている陛下に向かって宣言する。
「ローゼリアはもう、俺の妻です。
ユール王子と婚約どうのこうの言う前に、もうすでに婚姻している人妻です。」
「はぁぁ?何言ってんの?」
「ですから、ローゼリアは、
もうすでにローゼリア・ハングロニアになっています。
俺の妻なんです。王族の婚約者にはもうなれませんよ?」
「…近衛騎士隊長、俺は信じない。」
「そう言われましても…もうすでに結婚して俺の屋敷で生活しています。
この状況を見て、わかりません?
ローゼリアが夫以外の男性にふれさせると思っているんですか?」
少しずつ、王子の表情が崩れていく。
おそらく、俺の言葉は信じたくないのだろう。
だけど、ローゼリアがずっと俺に抱き着いている。
はたから見ても、抱き着いているのはローゼリアだとわかるくらいぎゅっと。
近付いてくると余計にそれがわかるのだろう。
一歩ずつこちらに近付いてくるごとに顔色が悪くなっていく。
「…本当なのか?」
「本当です。」
「俺は…ローゼリアと結婚できないのか?」
「そうですね。…ローゼリアはもう俺のものですから。」
「そんな…。」
あと数歩で俺たちの所までたどり着くと思われる場所で、王子は崩れ落ちた。
力なく倒れ、動かないところを見ると気を失ったようだ。
「誰か、ユール王子を救護室までお連れしろ!」
「「はっ!」」
騎士たちに担ぎ上げられるように王子が運ばれて退出していくのを見送り、陛下に向き直る。
先ほど倒れた王子と同じくらい顔色の悪い陛下を見て、
王妃の嘘については陛下も知らなかったのだと思った。
「陛下、今日の勤務は途中で帰宅してもよろしいですか?」
「ああ。…すまない。原因はこちらで調査しておく。
ローズにも、申し訳なかった。」
「調査結果は後で教えてください。
では、すみませんが、妻の体調が悪いようですので、退出させてください。
失礼いたします。」
抱きかかえたまま廊下にでて馬車で帰ろうと考えていたが、
その言葉と同時に転移させられた。
ローゼリアが腕の中で魔術式を発動させたのだと気がついたのは、
俺の屋敷の玄関前に転移させられた後だった。
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