第24話 黒のドレス
「あれ、うちの前?」
「あ、ごめんなさい。何も言わないで魔術式発動させちゃいました。
帰りも転移するつもりだったので…。」
「あ、ああ。そういうことか。急だったからちょっと驚いた。
まぁ、すぐ帰ってこれて良かったかな。
戻ったよー。」
少し困ったような顔をしているローゼリアを、
そのまま横向きに抱き上げて玄関から入る。
すぐに執事室からグレッドとエレンが驚いた顔で迎えに出てくれた。
「え?早いですね!」
「あらあら。やっぱり早く帰って来たんですか~?
我慢しきれずに連れて帰ってくるとは思ってましたけど、早すぎませんか?」
少し呆れたようなエレンに、何を想像されていたのだろうと思う。
我慢しきれずに連れて帰ってくる…?
あぁ、なるほど。ローゼリアのこのドレス姿を見てってところかな。
確かにそういう気持ちになったのは事実だなと思い、苦笑いで誤魔化す。
「ちょっといろいろと予定外のことが重なってね。
少しこのまま私室で休んでから夕食にするよ。」
そう告げて、二階の私室までローゼリアを連れていく。
俺の私室に入るとソファに座り、
ローゼリアをひざの上に座らせて間近で黒のドレス姿を見つめる。
黒のレースの間から透けて見える、腕や鎖骨あたりの肌がなまめかしい。
食い入るように眺めていたら、ローゼリアが軽く首をかしげていた。
「え?どうかしました?」
「ねぇ、ローゼリア。このドレス、どうしたの?
いつ、このドレスを用意したのか聞いてもいい?」
「…このドレスは、去年作ったものです。
商業ギルドがお礼だといって、
好きなドレスを注文して良いと言ってくれたので…。」
「去年、ね。
黒色のドレスってめずらしいと思うけど、どうしてこの色に?」
聞いているうちにローゼリアの耳が赤くなっていって、
今は首すじまで赤く染まってきている。
いつもなら俺の目を見て話すのに、めずらしく視線をそらされている。
「…ジークフリート様の色ですから。」
恥ずかしそうに話すローゼリアには悪いが、答えはそうだろうと思っていた。
だけど、どうしてもローゼリアの口から聞きたかった。
俺のうぬぼれではないとはっきりさせたくて。
「そっか。俺の色ね…。
俺とこうならなかったとしても、
このドレスで卒業パーティに出るつもりだったの?」
「いいえ。このドレスは一人では着替えられません。
ですから、いつものように一人で着替えられるドレスを用意していました。
…このドレスは、自己満足のようなものです。」
「自己満足って?」
「お慕いしている人の色をまとうのが令嬢たちの夢だと聞いて、
私もこの色のドレスを身にまとってみたかったのです。
だけど、着る機会も無いので、作るだけで満足していました。
今回、エレンたちが手伝うと言ってくれたのと…結婚したのだから、
ジークフリート様の色に染まっても…良いのではないかと思いまして…。」
「うん、すごいね。頭からつま先まで、俺の色に染まってる。」
「…ダメ、でした?」
「…ダメ、だな。」
「え?」
「俺は…こんなに独占欲があるとは思ってなかった。
ローゼリアが俺の色だとわかった瞬間、すぐさま連れて帰ろうかと思った。
だけど、それ以上に、俺が贈ったものじゃないのが残念で…。
今度は俺に全部贈らせてくれ。
次のドレスも、アクセサリーまですべて、俺の色にしてもいいか?」
「…はいっ!」
「あぁ、また泣きそうになってる。どうした?」
「ジークフリート様の色を身にまとってもいいんだって思ったら、
うれしいのと安心したのと、
みんなの前で妻だって言ってもらえたのを思い出して…。」
あぁ、そういえば。あの広間で宣言したのだった。
どうせ陛下も公爵も公表していないとは思っていたけれど。
もうローゼリアを手放すことなんてできない。俺のローゼリアだ。
あの勘違い王子以外にも狙っていた令息たちがいたのは知っている。
たとえ他に婚約者がいたとしても、
ローゼリアが相手なら婚約し直すのはたやすいはずだ。
もう俺のものだと言って牽制したのは正解だったと思う。
「お前は俺の妻だよ。
…このドレス、脱がないと夕食には行けないね。
一人では着替えられないのだろう。俺が手伝ってあげるよ。」
「…はい。」
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