第18話 8年前の話

「え?もしかして…8年前、陛下と王妃にもう王宮に来ないって言ったの、

 俺の結婚話のせい…だった?」


「…はい。王命だとか第4王女だとかは知らなくて…。

 王宮で女官たちが話しているのが聞こえて…。

 ジークフリート様が婚約した、もうすぐ結婚する、とだけ聞いて…。」


「あああぁ、そういうことだったのか。

 だから最後の日、俺と目を合わせてもくれなかったんだ…。」


「だって…顔を見たら泣いてしまうかもしれないと思って…。

 ジークフリート様の前で泣いたら困らせてしまうでしょう?」


これ以上ないくらいに強く抱きしめられて息が苦しい。

でも、あの頃の苦しさを考えたら、もっときつく抱きしめてほしかった。


ジークフリート様との時間を自分から断ち切らなきゃいけなかったあの日。

王宮からの帰り道、馬車の中で涙が止まらなかった。

どんなに王子たちから嫌がらせをされても、

少しでもジークフリート様に会えるだけで良かった。

遊んでもらえたり、抱き上げて運んでもらえた日はうれしくてうれしくて。


あの王宮での時間は、私の宝物のような思い出だった。

もう会えなくても、一生ジークフリート様だけを想って生きていくつもりだった。

いつでもこの国から逃げ出せたのに、とどまっていたのも。

もしかしたら、そんな奇跡のようなことはあるわけないと思っていたけれど。



「だから…あの日、久しぶりにジークフリート様に会えてうれしかった。

 何もかも捨てて国を出るつもりだったけど、最後の賭けに出たんです。

 もし叶うのならジークフリート様の妻になりたいって思っていたから。」


「…そっか。さすがにそういう風に思われてたのは気が付かなかった。

 俺にとって大事な子だったけど、さすがに恋愛感情ではなかった。

 最後に会った時はローゼリアが10歳だったしな。」


「そうですよね…わかっています。」


「だけど、王宮で再会して、満面の笑みで俺に嫁ぐって言ってくれて、

 少し震えた声で挨拶してくれた時、俺の妻にしようって思った。

 自然に…大人の女性だって、そういう意味で大事な人だって思えた。」


「…はい。」


「まだちゃんと最後までしてないのは、せめて学園の卒業まで待ちたいから。

 残念だけど卒業パーティーは陛下の護衛があるからエスコートは出来ない。

 その代わり、卒業パーティーの後は3日間の休みをもらった。

 …卒業したら、ローゼリアの全部を俺のものにしていいか?」


「…はい。全部…もらってください。…んんっ。」


見上げて返事をしたら、そのまま食べられそうな勢いで口づけられる。

半開きだったくちびるの中にジークフリート様の舌が入り込んでくる。

中を舌でかき混ぜられるようにされて、もう何も考えられない。

力が抜けてしまっても、それはしばらく続いて…。

くったりしたまま寝台に連れて行かれ、着ていた部屋着をすべて脱がされる。

夜着を着ていてもどうせすぐに脱いじゃうんだからって言われると、

それはそうなのだけど…脱がされるのはやっぱり恥ずかしい。


ジークフリート様は夜着の下だけ履いているのが好きなようで、

全部裸なのは私だけなのも…恥ずかしい原因の一つだと思う。

すべすべだねって言われて、なでられるのは嫌じゃなくて、

ジークフリート様がうれしそうに笑うから、私もうれしいと思ってしまう。


ちゃんと夫婦になるのは、もう少しだけ我慢するから。

そう言われて、抱きしめられたまま意識が無くなるように眠った。


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