第16話 前妻の秘密

仕事を終えて帰ってきたジークフリート様と夕食を取った後、

湯あみを終えると部屋着に着替えて、

ジークフリート様の私室でゆっくりとくつろいでいた。

三人掛けのソファに座ると、すぐ隣にジークフリート様が座る。

肩に手を回されるとジークフリート様の胸に寄り掛かるような姿勢になる。

こうして二人きりで話すのが夜の日課になりつつあった。


「仕事部屋はどう?使いにくかったら言って。

 離れとか必要なら建てるよ?」


「大丈夫です。集中したいときもありますが個室であれば問題ありません。

 …最初の頃はよく失敗して爆発したりしていたので、

 侍女たちに危険が無いように別邸に移ったのです。

 今は実験する前に部屋の壁を強化したり、防御したりできますから。」


二階の私室とは別に仕事部屋が必要だろうと、

ここに来た次の日に一階の空いている部屋も使用していいと言われた。

確かに私室だと気が緩んでしまうので、仕事部屋があるのはありがたい。


「問題ないなら良かった。

 グレッドに聞いたけど、みんなに防御のバッジを作ってくれたって?

 みんなとても喜んでバッジをつけていたよ。

 …守ろうとしてくれてありがとう。」


「いいえ。私のせいで危険になるかもしれませんから。

 …これ、ジークフリート様のも作りました。つけてもらえますか?」


ジークフリート様のために作ったペンダントを渡すと、その場でつけてくれた。

銀のプレートが付けられただけのシンプルなものだ。

仕事の邪魔にならないように最小のものを作ったつもりだった。


「…軽くて邪魔にならないしちょうどいいよ。

 俺の仕事の邪魔にならないように気を遣ってくれたんだろう?

 バッジだとどこかに飛んで行ってしまいそうだしな。」


「それもありますが…

 やっぱりジークフリート様のは特別なものにしたくて…。」


笑顔で受け取ってくれたのがうれしくてそう言うと、

ジークフリート様の笑顔がふわっと優しいものに変わった。

私を抱き上げてジークフリート様のひざの上に乗せると、

ぎゅっと抱きしめてくれる。

そのまま腕の中に閉じ込めるようにされて、素直に力を抜いた。


まだ妻になって4日目だけど、

こうして抱きしめられていると妻になれたって実感できてうれしい。


「ずっと大事にするよ。ありがとう。」


「はい。」


いつもならこのまま口づけられるのに、

ぎゅっと抱きしめたまま動かないジークフリート様に、

何かあったのかと思って顔をのぞき込む。

眉間にしわを寄せているのを見て、どうしたのと聞いていいか迷う。


「ジークフリート様?」


「ああ、ごめんね。

 今日、グレッドにお墓の場所を聞いたって?」


「はい。最初の奥様に挨拶しないのは失礼かと思いまして…。」


「うん、そうだよな。普通はそうだった。」


「普通は…?」


苦虫をかみ潰したようなジークフリート様に、

それほど聞いてはいけなかったことなのかと思い、泣きそうになってしまう。

まだジークフリート様は奥様のことを忘れていないのかもしれない。

やっぱり聞いてはいけないことだったんだ。


「あぁ、また泣きそうになってる。

 何を思って悲しくなった?」


「…ジークフリート様はまだ亡くなった奥様を思っていらっしゃるのでしょう?

 余計なことを聞いてごめんなさい…。」


「あ、あ、違うから!そうじゃないんだ。大丈夫だから泣かないで!」


目や鼻や頬にたくさんのキスをされて、

その合間にもずっと、違うよ、大丈夫だよと言われても、なかなか涙が止まらない。

それを焦ったようにしているジークフリート様に、また申し訳なく思ってしまう。



「…あのね、口外しちゃいけないことになっているんだが、ローゼリアは別だ。

 俺はローゼリアには隠し事をしたくない。

 今から話すことを聞いても驚かないようにしてくれる?」


「…はい。」


「俺は…結婚していない。」


「はい?」


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