第15話 大事な人たち

「一段落ついたのなら、お茶はいかがですか?」


「ありがとう。グレッドとエレンも一緒にどう?」


「あら。私たちも同席してよろしいのですか?」


「…ジークフリート様は怒ったりしないでしょう?

 せっかくだからジークフリート様の小さい時の話を聞いてみたくて。

 一緒にお茶してくれるとうれしいのだけど、ダメかしら?」


「そういうことでしたら、喜んで。」


ジークフリート様の屋敷に来て三日が過ぎていた。

来た翌日からは屋敷にかけているという結界の魔術式を改良することから始めた。

陛下とお父様からの妨害だけでなく、私をねらって他国から何か来ることもある。

別邸や学園の寮にいる時も私が結界を張り直ししていた。

ジークフリート様の屋敷も、同じように張り直すつもりでいたのだが…。

自分一人が守られていればよかった別邸や寮とは違い、

ここではジークフリート様はもちろん、使用人の6人も守らなければいけない。

そのためには屋敷の結界だけでは足りなかった。


「これをみんなに渡してつけてもらえるかしら。」


「バッジ…ですか?」


「ええ。

 この屋敷に、というよりジークフリート様に仕える者の証みたいなもの?

 悪意を持って近付いてくるものがいればわかるし、

 危害を加えられるようなことがあれば私に伝わるようになってるの。

 さらわれてもこの屋敷に転移して戻ってくるようになってるし、

 命の危険があるような衝撃ははねかえすようになっているわ。」


「…ローゼリア様…そのような防御用品は聞いたことがありませんよ?」


みんなにつけてもらおうとグレッドに手渡すと、なぜか呆然としている。

もしかして聞いたことが無いから効果を信じられないとか?


「今できたのだもの。聞いたことが無くて当然よ?」


「えっ。ローゼリア様!今おつくりになったのですか??」


「そうよ。今できたばかりなの。

 結界でこの屋敷を守っても、みんなは外に出る用事も多いでしょう?

 その時に何かされても大丈夫なものを作って渡そうと思って。

 ジークフリート様のはペンダント型にしてみたの。

 これなら騎士服の中につけてもらえると思って。」


「はぁぁぁ。話は聞いておりましたが、想像以上です…。

 こんな使用人の私どものために…このように素晴らしいものを。」


「だって、ジークフリート様にとって6人は特別な方なのでしょう?

 ただの使用人として接してないのはわかっているわ。

 ジークフリート様が大事にしている人たちなら、私も大事にしたいの。

 それなのに私のせいで何かあったら嫌なのよ。受け取ってくれる?」


「…ありがとうございます!」


「本当になんとお礼を申し上げて良いのか…。感謝いたします。

 …亡くなった奥様も、

 ジークフリート様がこのように素晴らしいお嬢様と結婚されたと知ったら…

 どんなに喜ばれたことでしょう。」


「奥様?」


「ええ。ジークフリート様のお母様です。

 ハングロニア家に嫁がれてきたのは奥様、シャロン様が19歳の時でございました。

 すぐに長男のガーライル様をお産みになって、

 それからしばらくは子が出来ずに悩んでいるご様子でした。

 ガーライル様が8歳になる頃、

 ようやく身ごもってジークフリート様を出産されたのですが、

 産後の肥立ちが悪く、ジークフリート様が1歳になる前にお亡くなりに…。


 今のハングロニア侯爵夫人は数年前に嫁がれてきた後妻なので、

 ジークフリート様とはお会いしたことも無いはずです。」


「そうでしたの…あまり侯爵家の方には帰られないのかしら。

 ご挨拶に伺った方が良いとは思うのだけど…。」


「おそらく行かなくていいとおっしゃると思いますよ。」


「それでいいのかしら。

 …それと、奥様って言うから、

 亡くなったジークフリート様の最初の妻だと思ったの。

 その方にもご挨拶したいと思うのだけど、墓園はどちらなの?」


「…それについては私どもからは何も申し上げられません。」


「え?」


「ジークフリート様に直接尋ねられるのが一番かと思います。

 お話ししたいのですが、口止めされておりまして…。

 ローゼリア様がジークフリート様に聞くことには問題ありませんので。」


「そう。じゃあ、夜にでも聞いてみるわ。ありがとう。」


口止めされている…けど、私が直接尋ねるのは構わないの?

疑問には思ったけど、これ以上はジークフリート様に聞いてみなければわからない。

そう思って、後はジークフリート様の子どもの頃の話を聞いて楽しむことにした。

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