第12話 二人の部屋
「…こっちの部屋は。俺とローゼリアの寝室。
開けてみてもいいよ。」
そう言われて引き戸を開けてみると、こちらも一瞬だけ光った。
中には大きな寝台が置いてあるだけだった。
大人が両手を広げて寝ても問題ないくらい大きな寝台。
綺麗に整えられていて、すぐにでも使えるようになっている。
ここは主寝室というものだろうか。夫婦で使うための寝室。
もしかして亡くなった奥様と使っていた?でも、それなら光ることはないはず?
「あー、こんな部屋だったんだ。
主寝室だから寝台だけは最初からついていたんだな。
ここにも奥に浴室がついているはずだよ。」
「ここは使ったことのない部屋なのですか?」
「うん、そう。
この屋敷をもらったのは7年くらい前だったかな。
それから開けたことすらなかったけど、広くていい部屋だな。
どうする?眠いなら、今日はここで寝てもいいし、
収納からすぐに寝台が出せるなら、私室を好きなようにしていいよ。」
「え?ここで寝るんじゃないんですか?」
「ん?」
「だって…結婚したのですから。」
自分で言った言葉に、思わず顔が熱くなってしまう。
ジークフリート様を見ると、驚いているのがわかる。
また変なことを言ってしまったかもしれない。
「…今日から俺と一緒に寝るつもりだった?」
え?違うの?
結婚したら一緒の寝台で寝るものなのではないの?
うちの両親は違うけど、普通の夫婦はそうするものだと聞いていたけれど。
…私とジークフリート様は普通の夫婦じゃないから?
「…ダメ、ですか?」
「…そっか。
まぁ、俺が我慢すればいい話かな…。
耐えられるかな…。」
小声でつぶやいてるのが聞こえてきて、
ジークフリート様が困っているのがわかった。
「ダメならいいです。わかりました。私室に寝台を出します…。」
思ったよりも小さい声になってしまった。
困らせたくないのに、一緒にいてほしいと思う気持ちの方が強くて、
本当は一緒に寝てほしいと言いたくなるのをこらえる。
「…ダメじゃないよ。」
ふわっと抱きしめられて耳元でささやかれ、力が抜けて床に座り込みそうになる。
それに気が付いたジークフリート様が私の身体を抱きかかえて、
ひょいと寝台の上に座らせてくれた。
「おっと。ごめんごめん。
嫌がってたわけじゃなくて、ちょっと考え込んでただけ。
いいよ。今日から一緒に寝よう?
少し寝るのが遅くなるかもしれないけど、ちゃんとここで寝るから。
ローゼリアは疲れているだろうから、湯あみしたら先に寝台に入ってて。
寝ててくれてかまわないから。」
「はい。」
いい子だというように頭を撫でてジークフリート様は部屋から出て行った。
残された後、少しだけぼーっとしてしまって動けるまで時間がかかったけれど、
その後は私室にソファやテーブル、
書き物用の机など置いて部屋を整えると、湯あみをすることにした。
浴室にいつも使っている香油などを置いてゆっくりと自分を磨き上げると、
下着は付けずに夜着だけを着て二人の寝室に向かった。
薄く透けるような布地で作られた夜着。
肌を隠せていないしお腹も冷えるのに、
どうしてこんなものを着るんだろうと最初は思っていた。
二年前に商業ギルドから依頼された避妊魔術。
夫婦の営みのことも、その時の資料を読んで初めて知った。
この夜着もその時にもらった資料の一部にあったものだった。
…まさか自分が着ることになるとは思っていなかったけれど…。
言っていた通り、寝室にジークフリート様はいなかった。
遅くなるって、どのくらい待てばいいのだろう。
寝台の中に入ると、質のいいシーツの肌触りが心地よくて、
眠気に勝てずに目を閉じた。
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